死生観, 対話, 雰囲気の醸成

[NE21-1133G/CDプログラム]
1.はじめに
2022 年、日本は総人口が減少していく多死社会に突入し、当年の国内の死亡者数、前年比の死亡増加数ともに戦後最多となった[1]。続く 2023 年も、死亡数は前年よりも増加している。
一方で、核家族化や人間関係の希薄化によって、死に直面したり、考えたりする機会は減少している。また、都市化に伴い、動物に触れる機会も減少し、命あるものを身近に感じることも少なくなってきている。
こうした中で、近年では死にまつわる対話を行う「デスカフェ」や、死と向き合うイベントである「Deathフェス」が実施され、多くの人々を動員しているように死と向き合う機会をつくる場も生まれつつある。
しかし、いまだに死を語ることをタブー視する風潮があり、身近な人と死について語ることは空気が重く感じられることがある。死は、自我の消滅や大切な人との別れ等からネガティブな事柄や感情を想起させる。これらのことから、死について語ることはタブーであると思う者も少なくない。
そこで、死について話す際の重苦しい雰囲気を和らげることによって、死に対する否定的な印象を軽減し、より前向きな認識を促進することはひとつの方法と言える。また同時に、死について考えるきっかけ作りを行うことで、死との対照にある生をより良いものにすることができると考える。
2.研究目的
本研究では、制作したプロトタイプを用いて、
- 死について話す際の重苦しい雰囲気を和らげる。
- 身近な人との間で死について話すきっかけ作りを行う。
これらによって、死の対照にある生をより良いものにすること目的とする。
3.先行事例との関連
既存のプロダクトの事例として、死生観光トランプ[2]が挙げられる。このトランプには、世界各国の様々な民族や昔の日本人などの死生観が提示されているため、死について考えるきっかけ作りがなされている。また通常のトランプとしても使用することができるため、死について話す際の重苦しい雰囲気を和らげることができる。
しかし、トランプを通して死について考えることはできても、生をより良いものにするという観点はない。そこで、当プロダクトを通じて、死について考える観点はもちろん、生についても考えることができるものを制作した。
4.成果物
4.1.releca:対話ツールキット
先行事例を踏まえ、当研究では戒名を取り上げた。現在では、戒名は故人のあの世での名前として命名されることが一般的である。したがって、戒名について考えることは、死後の世界で自分がどのような名前を背負うのかを考えることに繋がる。また、仏教においては生前に授かるのが本来の形である。さらに、戒名は本人の人柄や趣味などをもとにして命名される。そのため、過去の自分を振り返ることに繋がると同時に、未来を生きる指針となる。
そこで、戒名を考えるための対話ツールキットとしてreleca を制作した(図 1)。releca は木板とホワイトボードマーカー、ホワイトボードイレイザーを含んだキットになっている。木板はホワイトボードのように使用することができるため、木板上に書いた文字はイレイザーで消すことができる。さらに、ホワイトボードマーカーとして筆ペンを採用した。


4.2.releca を用いたワークショップ
一般社団法人デスフェスさんにご協力いただき、11月 19 日、12 月 17 日の 2 日間に渡り、releca を用いて戒名を考えるワークショップを行った(図 2)。また、個人では友人や家族を集めてワークショップを開催した。最終的に、計 18 名の参加があった。
ワークショップでは、自分の戒名を考えるワークとアドホックに構成されたペアの戒名を考えるワークを実施した。自分の戒名を考えるワークの目的は、相手の戒名を考えるための橋渡しである。加えて、自分の戒名を考えることで、どのような事象が起こるかを調査するための役割がある。次に、ペアの戒名を考えるワークは、相手の戒名を考える際にどのような発話や事象がみられるかを調査する役割がある。
5.研究結果
5.1.質的調査法
当研究では、質的調査法を用いて分析を行なった。具体的には、ワークショップ内で録音した音声を googleスプレッドシートに書き起こし、参加者の発話を分析した。
まず、自分の戒名を考えるワークでは、戒名を共有する場面にて、自分の死生観について話す参加者がいた。具体的には、「死の果てにも存在したいと思ったため、果てという字を使いました。」という発話がみられた。また、自身の中長期的な目標を漢字に表し、戒名として名付ける参加者もいた。具体的には、「実は生命力や堅実、裕福という意味があり、将来裕福になりたいため選びました。」という発話がみられた。
次に、ペアの戒名を考えるワークでは、戒名を通して普段伝えられない気持ちを伝える発話がみられた。家族やカップルで参加した方々がペアになり、相手の戒名を考えた際に、普段伝えられない気持ちを戒名に込め、全体に共有するという現象がみられた。具体的に家族で参加された方の発話を例に取り上げると、「母が家族や周囲を優しく結んでくれる存在だと思ったため、優結としました。」という発話がみられた。また、ワークショップ後に、戒名に関する話を家族にしたという参加者もいたため、期待する効果は概ね得られたと言える。
5.2.今後の展望
releca は木板のホワイトボードとしての機能性が損なわれやすいため、機能性の維持という点で改善の余地があると考える。一部の木板ではホワイトボードマーカーで書いた文字を消すと、文字が木板に滲んでしまう現象が起きている。
今後は、木板をホワイトボード化する過程を見直し、ホワイトボードの機能性を維持するための方法を考えていく。さらに、releca は現在もプロトタイプの段階なので、今後も改善を繰り返し、最終的にはパッケージ化していきたいと考えている。
6.おわりに
今回の研究では、死生観をポジティブに考えるための対話ツールキットを制作した。また、ワークショップの参加者の発話から、自作したツールキットで期待する効果を概ね得られたと考えられる。さらに、releca は現在もプロトタイプの段階であるため、今後も改善を繰り返すと同時に、その在り方も模索していこうと考えている。
参考文献
[1] 厚生労働省 「令和 4 年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf
[2] ワカゾー「死生観光トランプとりせつ」
https://wdakazo-deathcafe.com/shiseikanko-trump/


