
Keywords: 遊びごころ, 創造性・破壊性, プロダクトデザイン, 廃材
1.はじめに
子どもはたびたび、大人を驚かせるような斬新な発想をする。大人の側も子どもたちの創造性に期待し、知育玩具の市場は技術革新とともに大きな広がりをみせている。それに対して、大人が創造性を養うための場は多いとは言えず、現実的な制約の多いビジネスマンたちが画期的なアイデアを出すよう求められることは増えているという矛盾がある。そこで、子どもの頃に持っていた遊びごころを少しずつ忘れてしまった大人こそ、自由奔放な発想を試みる場が必要であると考えた。それを実現するためには、子どもが物事にのぞむ態度を無意識に発揮させ、その姿から大人が学ぶというという相互の関わり合いが必要である。つまり、子どもも大人も一緒になって触れられる、自由で新しい遊びのフィールドを作り出すことが社会に求められていると言える。
2.研究の目的
本研究は、子どもが持つ自由な発想力を大人たちに今一度呼び起こさせるような遊びのフィールドの開発を行うものである。子どもの持つ視点に着目し、大人が遊びごころを取り戻すような経験をデザインすることを目的とする。また、その過程において、人の遊びごころを取り戻させようとすることはどのような意味があるのかを調べ、考察していく。
3.先行事例との関連
小さな子どもと大人がいっしょに遊べるものとして、筆者は積み木に着目した。フェリシモの積み木「KUUM」は、論理性と感性を育てる創造的玩具である。しかし子どもの遊んでいる姿を見て新たな視点に気づかされるという点はあるものの、大人の創造性を豊かにさせるものとは言い難い。また、机の上で収まる点は、良くも悪くも大人にとっては単なるアートピースにすぎない。
CARLOSJIMENEZの「HORIZONS」は、形がバラバラな廃材を並び替えることで積み木のような遊び方ができるが、高度な想像力が働くことでやっと楽しめるようになるため、やや敷居が高い。また、遊び方が単調で多方向への思考のジャンプがしづらく、遊びごころを呼び起こすまでは至らない。
一方で筆者が入手した廃材は、いびつで色も形も不揃いながら、「なんでもないからこそ、さまざまなものをつくれる」ものであった。既製品にはない「生の素材の余地」が、子どもの好奇心を強く刺激し新たな発想を展開させているように見えた。積み木においては、造形の完成度が高ければ高いほど純粋な創造性が発揮されづらいため、素材の中にある余地が重要であると考えた。
4.調査と分析
4.1.子どもの観察と仮説
子どもの持つ遊びごころを調査するために、川崎市多摩区内の学童保育を訪問し、子どもたちとのコミュニケーションのなかで、どのような姿勢が斬新な発想を生み出すのかについての参与観察を行った。

子どもは好奇心が強く、目で見て、手で触って理解しようとする。知らないものと自分とを関係づける能力が高く、筆者はこれを「つなぎ力」と呼んでいる。観察調査から、つなぎ力が高ければ高いほど、連想による知識の組み合わせによって斬新な発想が起こるのではないかと推測した。
また、子どもは遊びのなかで決めたルールやつくったものをすぐさま壊していた。壊してはまた新たなものを作るという流れが短いスパンで形成されており、大人に比べ、次から次へと新しいものを生み出せる力があった。この「壊す力」が、子どもの思考を柔軟に切り替えることにより、突飛ななにかを生み出すのではないかと考えた。しかし大人になっていくにつれて、社会のさまざまな制約からそのつなぎ力と既存のものを壊す力が制限されていく。もともと持っていたはずの遊びごころのハンドルの振れ幅が小さくなることが原因でのびのびとした発想ができなくなってしまうのではないか、という仮説を導いた。
4.2.「壊す」という創造的な行為
これらから、子どもの持つ遊びごころを大人も一緒になって発揮できるフィールドとして、「壊す」という創造的な行為に着目し、廃材を用いた工作セットを考案した。大人になるにつれ、身の周りが既製品ばかりになった状況に対して異を唱え、子どものころの「なんでもないものが遊びに変わる瞬間」をもう一度体験させることが狙いである。加工する材料をあえて廃材にすることで、壊しやすさ・壊れやすさと、自分の手で変化していく感覚が両立することを目指した。
本セットは、子どもと大人の視点が混ざりあい、さらなる遊びごころの復元に繋がることを想定しているため、子どもと大人が一緒になって利用することを想定している。
5.成果物「KOWACELL」
ひとつは、破壊的廃材工作セットの「KOWACELL」である。なかに入っているのは全て、職人の試行錯誤の過程で生まれた廃材のパーツであり、これらを壊しながら作り変えることで、廃材を価値のあるものへと変身させる体験ができるようになっている。

もうひとつは、「KOWACELL」の紹介や、作りたくなる動機をおこすための要素として撮影した動画である。子どもと一緒に利用している場面を想像しやすいように制作した。





6.おわりに
本研究を通して、ブルーノ・ムナーリやホイジンガの著作を調べながら、実際に創造性を高める玩具やキットに触れた。そのなかで、完成された造形かどうかにかかわらず、ものが自分の手のなかで変化していくことを楽しむことができれば、創造性は無限に広がるのだとわかった。また、常に遊びごころを持ち、世界と自分とを関係付け続けることが、自由な発想に良い影響を与えるだけでなく、人生を楽しく生きていくことに必要なのだと考えるようになった。
本研究は、筆者自身にも良い影響を与え、少しずつ遊びごころが復元されたと実感している。ものを自作することや、経験したことのない何かに触れることに対して積極的になっただけでなく、作ることと同じかそれ以上に壊すことの意味を意識するようになった。子どものころの自己効力感を取り戻しつつある心持ちを維持していくことで、ほかの分野にも触れていくことも必ず楽しんでいけるはずである。今後も、この研究から得られた信念を持って、人、もの、環境を豊かにするべく境界線をデザインしていきたい。