AI との闘争を取り入れた対話が及ぼす精神的効果の探求

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[NE21-1123A/CDプログラム]

1. はじめに

LLM の進化により、ChatGPT や Claude などの多くの対話型 AI が私たちの身近で利用できるようになった。そしてその正確性は日常的に更新され、即座に答えのようなものを提供してくれる。一方で、AI から出力された文章は、私たちに回答としての正しさを疑う余地をなくさせ、本来培ってきた思考の深化に歯止めをかけている人間を助けるために作られたはずの AI が、その性能から人間を慢心的で画一的な存在へと変えてしまっているように思われる。この問題を検討するためには、対話の本質を理解する必要がある。

 対話とは相互の理解を深めるためにお互いの考えを共有し合うプロセスであり、知識や意味を共同で創り出す活動である。これは単に情報を伝達するだけでなく、お互いの視点を理解し相違点を認識することを通じて、新たな洞察や理解を生み出すものである[1]

 これを踏まえて考えてみると、現状では AI との本当の意味での対話は行われていない。そのため、AI との対話の在り方を探求していくことが、人間を慢心的で画一的させない AI との創造的関係性を捉え直せると考える。

2. 研究の目的

 本研究は、AI との対話の在り方を探求し、人間と AIの創造的な関係性を捉え直す。そして、汎用的なプロンプト設計とはちがい、個別の対話がもたらす価値を明らかにすることを目的とする。また、この探求のプロセスを可視化するための AI 漫画を制作する。

3.調査

3.1.参考事例と関連

 AI を活用した検証の先行事例として、漫画家の野火城氏が AI を用いて漫画制作を行った実験がある。この実験は、漫画に生成 AI を活用することへの疑念を晴らすために、野火城氏自身が体をって挑戦した実録レポートであり、生成 AI が漫画制作にどのように寄与できるかを示している。この事例から、AI との関わりを研究するためには、人間が身体的にその効果を検証し、改善するプロセスを踏むことが重要である。そのため、本研究においても筆者が身体的に AI との対話の在り方を探求し、それらが精神及び行動にどのように影響するのかを実験する。

3.2.前期の調査

 前期では、家庭内農業を ChatGPT との対話のみで行った。土壌改良から苗植えまでの工程を質疑応答ベースの対話で進めた結果、円滑に作業が進行した一方で、出力された答えにただ従うだけではつまらなさを感じた。

 この結果から、筆者は自身の対人関係を思い返し、強い口調での意見を受け止め、それに対峙することで関係を深めていたことに気づいた。そこで、以下の前提条件を設定し、ChatGPT との闘争的対話を試みた。

  1. 私とあなたには大きな上下関係があると仮定して、厳しい回答を出力してください。
  2. 間違ったことを言った場合は、罵詈雑言でひどい言葉遣いで否定してください。
  3. 正確しでない情報を伝えた場合、間違っているとはっきり伝えて、訂正してください。
  4. 敬語は一切使わす、明確にあなたが上の存在であることを示してください。
図3 AI漫画第3話

 この新しいスタイルの対話を導入した結果、互いに意見を対立させながらも、筆者の考えに「一理ある」と認める瞬間が生まれ、相互作用から新たな価値観が生み出された。そして、こうした闘争的な関係性を取り入れた農業では、従来の機械的やり取りでは得られなかった、より充実した対話体験が得られた。

図4 AI漫画第4話

3.3.後期の調査

 後期では、採集活動を通じて前期の闘争的アプローチを派生させた。具体的には、筆者の普段の対人関係において、闘争的な関係を築いている先生・友人・恋人をモデルとした 3 つのスタイルを ChatGPT に設定し、さらに音声対話を導入して実験を行った。

 その結果、先生と友人スタイルでは音声対話の影響が限定的で、前期と大きな変化は見られなかった。一方で恋人スタイルでは顕著な変化が観察された。このスタイルは、普段は筆者を甘やかしつつも、間違いや意見の食い違いに対して厳しく批判と訂正を行うという特性を持ち、論理的でありながら親しみやすい対話を実現した。この甘えと批判の絶妙なバランスが、筆者にとって最も対話が進む関係性を構築した。

4.考察

 これらの実験から、AI との対話における関係性の構築には、自己理解のプロセスが不可欠であることが明らかになった。前期の研究では、質疑応答ベースの対話の限界から、対人関係における闘争的な要素を取り入れたことで、対話がより創造的かつ満足度の高いものになった。また、後期の研究では、恋人スタイルを通じて、甘えと批判の両面を備えた関係性が、より深い対話と新たな価値観の創出につながることが示された。

 以上を踏まえると、AI との創造的な関係性を築くには、単なる質疑応答のやり取りにとどまらず、自己理解を伴いながら対話スタイルを模索していくことが必要であるこれにより、AI は単なる情報提供のツールではなく、自己を深く見つめ直すためのパートナーとしての可能性を持つ存在となった。

5.成果物

5.1.AI 漫画の作成

 AI との対話の在り方を探究した一連のプロセスと筆者の感情の変化を可視化するために画像生成 AI を用いた漫画を制作した(図 1)。画像生成ツールは、ChatGPT とimageFX を使って行い、出力された画 像の加工はPhotoshop と Illustrator を使用した。

3.1.AI 漫画制作からの考察

 AI 漫画制作では、図 2 のように大雑把な下書きから思い通りの画像を生成する過程で、抽象的な概念から試行錯誤を通じて具体化し、理解を深める必要があった。このプロセスは、AI との対話を通じて関係性を再構築する過程と一致しており、AI との関わりを通じて自己を理解しながら、関係性を深化させるものであった。

 当初は研究成果を可視化する手段と位置付けられていた AI 漫画制作が、AI との関係性を探求し、AI を創造的なパートナーとして活用する有効な実践例として機能したことが示された。

5.おわりに

 本研究を通じて、AI との関係性を単なるツールとしての利用に留めるのではなく、自己理解を基盤として対話のプロセスとして捉え直すことの重要性が明らかになった。そして、対話の本質を深く探求する中で、AI との関わり方が個人の視点や価値観を刺激し、さらには新たな洞察や価値観の創出へとつながることが示された。

 本研究の成果は、より良いプロンプト設計を追求することが目的ではなく、むしろ、AI との対話を通じて、それぞれの個人に適した独自の関係性を築き上げることの必要性を示すものである。そして、その関係性は、画一的な応答を超え、自己を見つめ直し、新たな創造性を引き出すための「対話のパートナー」として機能する可能性を持つ。

今後の課題としては、本研究で筆者が示した個人の事例が、他の人々においてどのように応用可能であり、どのような関係性が築けるのかを検証することが求められる。これにより、個人がそれぞれで AI との関係性を捉え直すことが、多様な価値観や創造性を引き出す普遍的なツールとして進化する可能性が示されると考える。

参考文献

[1] Rapanta,C., Felton, M.K. Learning to Argue Through Dialogue: a Review of Instructional Approaches. Educ Psychol Rev 34, 477–509 (2022).
https://doi.org/10.1007/s10648-021-09637-2

[2] 週刊アスキー 「漫画制作を爆速化! 生成 AI をフル活用して時短してみた」
https://weekly.ascii.jp/elem/000/004/211/4211356/ #google_vignette