Keywords:メイク,コミュニケーション,自己表現,対話
鈴木 美希
[NE29-0207C/CDプログラム]
1.はじめに
「どんな人になりたいか。」目標を持つ事は生きていく上で大切な事だ。しかし、実際に考えていくとなかなか具体的には見えてこないのではないだろうか。
一方、女性にとってメイクとは、毎日行う自己表現である。化粧品を用いて顔に彩色を施し、美しく見せることが目的である一方で、社会に出ると女性の身だしなみの一部とされ、強制される[1]。世の中はメイクに関する情報で溢れている。
しかし、メイクが「面倒だ」という人も多く、「自分には何が合うのかわからないから」「思うようにできないから」などの理由から、メイクを避けてしまう人がいるのも現状だ。
そこで、筆者はメイクをアイデンティティの形成方法と捉える。自分がどんな人間になりたいのかを内面と外面の両方から対話を通して探り当てていく過程を記録する。「身だしなみだから仕方ない」とマイナス思考でメイクをするのではなく、「どんな私になろう」とわくわくしながらメイクをしてもらいたい。
研究のテーマにある「カリス」とは、ギリシア神話に登場する美と優雅を司る女神たちの事で、人々に肉体的な美しさを表して喜ばせるだけでなく、精神的な部分においても優美を与えたと言われている。カリスのように見た目だけでなく心も美しい女性を記録する。
2.研究の目的
本研究では、筆者が被験者に対しメイクを施しながら、相互にコミュニケーションすることによって、被験者の目指す「自分像」の方向性を探りながら、対話を実施する。また、これらの活動をデザインとして捉え、対話の場づくりに活かせる知見を見出すことが目的である。
3.先行事例との関連
対話を通じて答えを探ることを試みた事例として、ワークショップデザイナーの中西紹一氏が行なった「占い社会学実践講座」[2] が挙げられる。ここでは、占いを一定のルールに基づいてする側とされる側が協働で「答え探し」をする技術であると解釈している。この場合の占いをメイクに置き換えることで本研究の目的の参考にすることができるのではないかと考えられる。
また、ネイルや美容室などで担当の人と会話が深くなっていく事がある。対面で会話だけに集中しているのではなく、何かをしながら話すために相手との壁を感じにくくなるためだと考えられ、本研究の参考にする事ができるのではないかと考えられる。
4.成果物
4.1.方法
被験者の女性5人に対し、メイクを施しながらなりたい人間像について対話を行い、その過程の記録を録画。編集したものをYouTubeで公開した。
さらに後日、対話の録画を相互に鑑賞し、振り返って感想を聞いた様子も録画し、公開した。これらを一連のシリーズ動画とした。
4.2.動画内容
第0章 始まりの物語
魔女がどんな経緯で彼女らに魔法をかけることになったのかが示されている。
第1章 強くて賢くて優しい
被験者:まよ 筆者との関係:高校の同級生
彼女が目指すのは強くて賢くて優しい女性。彼女が求める強さとは、何にも動じず、自分を貫く事。賢さとは知識を持つ事。優しさとは守れる事。
第2章 信頼を勝ち取りたい!
被験者:まなみちゃん 筆者との関係:大学の同級生
彼女が目指すのは信頼を勝ち取れる人。仕事においても友人関係においても信頼は重要だ。その信頼を勝ち取るために努力し続ける。
第3章 変わりたい・・・
被験者:福ちゃん 筆者との関係:大学の同級生
彼女が目指すのは変わり続けられる人。いろいろなものに変身し、いろいろな視点から物事が見られるようになる。趣味を生かし変わり続ける。
第4章 一人でも楽しい時間を
被験者:鄭ちゃん 筆者との関係:バイト仲間
彼女が目指すのは一人でも楽しい時間を過ごせる人。留学という経験を通して感じた寂しさを糧に、人間としての自立を目指す。
第5章 自分の道をまっすぐ
被験者:福島さん 筆者との関係:大学の後輩
彼女が目指すのは自分の道をまっすぐ進める人。短期留学をはじめとし、様々な経験を積極的に積むことで自らの力とし、力強く自分の将来を切り拓いていく。
最終章 終わりの物語
魔女である筆者と被験者である筆者の自己対話になっている。これまで5人と対話してきた中で「人を愛せる人になりたい」という理想の自分を見つけ、具体的な自分のなりたい自分像を語る。
4.3.ブランディング
一連の動画をYouTubeで公開するにあたり、ブランディングを行った。
世界観としては、悩める彼女らに魔法使いである筆者が魔法をかけると言うものである。
それに加えてシリーズ動画と世界観の統一としてロゴの製作や動画内での筆者の仮装を行った。
4.4.動画の仕様
全体10分弱の動画である。
はじめにどんな自分になりたいかを一言で表してもらい、その後の本編でその本質を探っていく。
話しているテーマを動画内に表示し、重要な部分に字幕を入れる等の工夫を施した。
4.5.カリスの魔女と魔術録
以下に作成したシリーズ動画「カリスの魔女と魔術録」の再生リストのリンクを掲載する。
再生リストURL
再生リストQRコード
5.おわりに
2020年は、これまでの常識が大きく変わり変化を求められる1年だった。人と関わる機会が大幅に減った中で自分と向き合う時間が増えたのではないだろうか。一方で身近な人と深く関わる機会は以前よりも増えていたようにも思える。研究を進めるにあたり、こういった社会状況が人と関わりたいと強く思わせてくれたと思う。
この研究を通して感じたことは、人の価値観の違いの面白さである。その人の価値観は様々なものとの出会いでできている。今回は同年代の女性と対話を行ったが、似た境遇にあってもなりたい人間像、考え方は全く違う。そこに正解も不正解もなく、誰もが必死に理想を探しているし、そこを目指して努力しているのだと言うことを強く感じる事ができた。
しかし、この研究の1番の収穫は自己の成長だったのではないかと考える。この研究を行う前は、どんな人間になりたいかと問われたら曖昧な答えしか導く事ができなかったと思う。だが、この研究を進めていく中で、いろいろな考え方に触れ、気持ちに触れ、私自身の心が動かされたのを感じた。これはこの研究の1番の財産なのではないだろうか。
動画の中で話してくれた5人は輝いていた。この動画は残る。いつかこの動画が彼女らの帰る場所になったらと願う。
参考文献
[1] 劇団雌猫(2020)『だから私はメイクする』祥伝社
[2] 占い社会学実践講座(中西紹一)
https://www.spiral.co.jp/spiral-schole/fortunetelling-2019
[3] 目からウロコのコーチング〜なぜ、あの人には部下がついてくるのか?〜 播摩早苗 PHP研究所



