Keywords:インフォーマルコミュニケーション,仮想空間,Cluster,Unity
田島 美鈴
[NE28-0191b/CDプログラム]
1.はじめに
笑いは、人間にとって欠かせないものである。進化論を提唱したダーウィンは「笑いは人間のコミュニケーションの最も初期の形態である」[1]と提唱した。さらに、オンライン化が進み人間関係を意識的につくることが何よりも大切になった今のコロナ禍の社会において、笑いは最大のツールになることだろう。
しかし、現代人がコミュニケーション方法、ましてや笑いについて体系的・論理的に学ぶことや実践する機会はほとんどなく、多くの人は笑いについて日々の生活の体験から肌感覚で覚えていくしかない状況である。
そこで筆者は笑いに対してデザインの視点からアプローチする。デザインは机上の学問ではなく、実際の場で何かを「する」ことであり、人の気持ちや行動を、小さなところからでも具体的に動かしていくことができる。
2.研究の目的
本研究では、まず、笑いがどういう言語行為なのか、具体的にどのような工夫がされているのかについて枠組みを整理する。次に、その枠組みを用いて、日常生活に溶け込んだパッケージデザインに落とし込み、実際に笑いの感情を生みだすこと、さらにはそこから感じるものから考えたり、対話したりすることを促し、未来について考えるきっかけを提供することを目的とする。
3.先行事例との関連
笑うことは人類に普遍的に見られるが、研究や文献は多くない。笑いの近接要因や進化史については古くからよく議論されてきたが、笑いの多様性を考慮した議論が不十分であるという点が指摘できる。
人は質の異なる多様な笑いを持っているが、個々の研究ではそのうちの一つか二つしか扱えず、全体としてみるとユーモアに対する「おかしみの笑い」だけを扱った研究が多い。苦笑、自嘲、冷笑、ごまかし笑い、はにかみ笑いといったその他の多様な笑いについて、あまり研究が行われていないと言える[2]。多様な笑いをそれぞれについてその発生メカニズム、機能、発達過程、進化史を検討する余地がまだ残されている。
4.調査
4.1.デザインに対する調査
2020年5月、ローソンがプライベートブランドの商品パッケージを全面刷新した。そのデザインを巡って、消費者から「分かりにくい」などの意見が寄せられるなど、ネット上で物議を醸していた。
このプロジェクトのデザインを担当したnendoの佐藤オオキ氏はデザイン刷新の真意を尋ねられ、現状のコンビニエンスストアが『買ってください』という肩肘張ったパッケージであふれかえってしまっている状況に対し、『今すぐにも必要、何でもいいから買うための商品だという認識が買い手にあり、購入に当たって特別な思いも動機付けもなくなっている』と指摘している。その上で、ユニバーサル性は最低限担保しながら、その上で『誰に届けるか、その人にどう感じてもらいたいか』を大切にし、皆で挑戦した結果、あのデザインにたどり着いたと語っている[3]。
この佐藤氏の指摘はコンビニエンスストア業界だけではなく、現代の様々な業界で蔓延していると言える。そこで、そんな業界のあらゆる箇所に潜む購買意欲を高めるとされている「型」、いわゆる「あるある」を、あえてコンビニエンスストアに当てはめることで特有の歪みや性質の傾向を浮かび上がらせることができるのではないかと考えた。
4.2.笑いに対する調査
笑いについて文献調査を行い、笑いの役割については「ソーシャルグルーミング」つまり社会的な役割を作る目的と、「脳の混乱抑制」をする目的が大きいとされることが分かった。そこで、この二つの笑いの原理を利用し、デザインと組み合わせることで笑いの感情を生み出すこととした。
相手に敵意がないことを表現するなど社会的なコミュニケーションで笑う「ソーシャルグルーミング」の心理を上手く使っている例が「あるある」である。人はお互いの「あるある」という共通認識を共有し仲間意識を持たせ、笑いを生み出すことで社会的な絆を高めている。この手法は笑いを生み出す手法として難易度も低く、今回の研究として上手く取り入れられると考えた。
そしてもう一つ笑いの役割として大きいとされる「脳の混乱抑制」は、常識からの逸脱である。これは予測に反することが起きた混乱を脳が笑って押さえ込んでいる状態で、その分固定概念が強いものは裏切りやすくなるとされる。今回の研究では、コンビニエンスストアの中で「健康に悪い」「脂っぽい」「美味しい」のような共通認識が強いポテトチップスを題材にすることで常識からの逸脱で笑いにつなげやすいと考えた。
5.成果物「ぶってるポテチ」
「ぶってるポテチ」という題目の様々な業種の中で蔓延している見慣れたデザインあるあるを抜き取り、ポテトチップスの商品パッケージデザインに当てはめた15連作を制作した。
図 1 ぶってるポテチ
作品は15個の作品で1つとなっており、原寸大のポテトチップスのパッケージに印刷して展示した。作品中でのポテトチップスへの購買意欲を高める表現は全て虚偽ではなく、違った角度から見方を変えれば表現可能となる範囲に留めている。
この表現形式は、一種のスペキュラティヴ(思索的)デザインとも言えるだろう。スペキュラティヴデザインとは、現実とは別の(あり得る)姿を提示して、見る側が倫理等そこから感じるものから考えたり、対話したりすることを促す概念的なデザインである。
6.考察
6.1.消費者側への問い
この作品を制作し、同じ「ポテトチッブス」という枠組みの中で伝え方を工夫することでどれだけ受け手に与える印象を変えることができるのかを考察した。
その中で、普段の自ら決断していると認識していた行動や選択をどれだけデザインによって促されているのかに気づかされた。ものが溢れかえっている現代社会において、差別化のためにものに対し過剰な形容詞で装飾し、もの以上の価値を与えることは当たり前になりつつある。自分の頭で考え選択していく力はより重要になってくるだろう。
6.2.生産者側への問い
この作品では、近年のビジュアルデザインがどれだけ「型」にはまっているかについて、批判的に提起する。
展示をした際、作品を見て違和感に気づき数秒は笑いの感情を抱くものの、しばらくすると冷静になり内省し、笑えなくなるような人も見られた。デザイナーなら尚更であろうし、普段からこのあるあるという「型」と向き合い、どれだけこの型に合わせるか、ないしはどれだけ型から外すかを問われる場面は多いだろう。もちろんどちらが正しいというわけではなく「この型ならこうであろう」という人が持つメンタルモデルを上手く利用し、その状況に合った型とはまり具合を模索する必要があるだろう。
7.おわりに
笑いとデザインについて問いかける作品を制作した。
この「ぶってるポテチ」から、同じポテトチップスという枠組みの中の伝え方だけでどれだけ受け手に与える印象が違ってくるのか。普段どれだけデザインの力で行動を促されているか。そして、デザインがどれだけ「型」にはまりがちなのか。そんなことについて考えるきっかけになればと思う。
参考文献
[1]Darwin,C.(1872)The expression ofthe emotions inmanandanimals.Murray(浜中浜太郎訳,1921 人及び動物の表情について岩波書店)
[2]ヒトはなぜ笑うのか?-行動学の視点から-, 松坂崇久
https://www.jstage.jst.go.jp/article/warai/21/0/21_KJ00009468506/_pdf/-char/jam
[3] ネットで物議のローソンPBデザイン nendo佐藤真意を聞いた, 日経XTRENDhttps://xtrend.nikkei.com/atcl/contents/casestudy/00012/00414/?i_cid=nbpnxr_breadcrumb
