仮想空間を活用した学生向け インフォーマルコミュニケーションの場の研究

Keywords:インフォーマルコミュニケーション,仮想空間,Cluster,Unity

中村 泰尊

[NE28-0095A/ CDプログラム]

1.はじめに

昨今のコロナ禍の社会においては、不要不急の外出を避けるため、オンラインで完結するモノ・コトの需要が高まっている。それらは、各家庭におけるインターネット 回線やデバイスの普及率、などの環境の発達によって実現されている。またこれをきっかけにこれからは、仕事や授業などオンラインで完結できるモノはオンラインで完結させてしまおうという傾向に、社会全体がなって行くのではないかと考えられる。一方で、こういった流れを受けて大学生達は、組織や集団内で行われる雑談などの、非公式かつ偶発的なコミュニケーション、いわゆるインフォーマルなコミュニケーションの場が失われて行く傾向にあることが危惧されている。 イノベーションを起こす上でも、学生の精神衛生上でも、学生同士のインフォーマルコミュニケーションは必要不可欠な要素であり、そのための場を用意する事はきわめて重要であると考えられる。こうした現在の状況の中で、インフォーマルコミュニケーションを活性化するために、筆者は仮想空間に着目した。実際のキャンパスの一部分をモチーフに仮想空間をデザインすることによって、擬似的にキャンパスの雰囲気を作り出し、学生たちがふらっと遊びに来るような場が提示できるのではないかと考える。

2.研究の目的

本研究では、Unity及びバーチャルSNS「cluster」を利用し、実際に複数人で共有することのできる仮想空間 の制作を行う。また、そうして制作した空間を利用し学生に向けたイベントの企画・実行を行い、仮想空間によってどの程度の事が実現できるのかを実験する。また、それを利用する事で学生にどれだけインフォーマルなコミュニケーションの場を提供できるのかの検証することを目的とする

3.先行事例との関連

2020年4月20日〜30日にかけて武蔵野美術大学有志による企画展示「バーチャルムサビ展」が開催された。この催しは開設2日だけで見ても1000人の来場者があり、20時〜22時のピークタイムでは大勢の来場者と交流を図ることも可能だったという。筆者もその空間を訪れたところ、実際に複数人での体験の共有ができる場として完成されていたと感じる。反面、来場者が多様すぎるため不特定多数の人間が場を共有していることによって生じるオンライン特有の発言のしにくさがあったのではないかと思われ、学生向けの内輪のインフォーマルコミュニケーションの場として活用することは難しいと感じた。そのため、対象者をより狭く同じ学部の仲間という枠にとり、その中でコミュニケーションの取りやすい環境作りが必要であると考えた。

4.実装してみて・考察

4.1.プロトタイプを製作してみて・考察

前期の活動ではまずプロトタイプとして、実際に私の所属する専修大学の校舎の一部をUnityにて制作、cluster にて公開してみた。「ネットワーク情報学部の学生向け」である事を念頭に置き、教室など実際に学生が訪れ、利用するような施設、またはそれらに関わるアイテムなどを使用し、彼らが身近に感じやすい環境を、具体的には専修大学の1号館を制作した。

図1 仮想空間に製作した1号館の外観

そうして作成したプロトタイプを同プロジェクトの学生十数名に確認してもらった所、実際の1号館の雰囲気を味わうことができる、本物を思い浮かべることができるというコメントをもらうことができ、同時にプロジェクト内の会話が盛り上がった。こうしたことから、コロナ禍でなかなか訪れることのできない校舎の情景を思い浮かべられるだけでも会話は弾むということがわかった。しかしそれだけでは物足りないと感じたため、そうして作成した校舎の中に会話の話題作りとなるような仕掛けを設置しようと考えた。

4.2.成果物を完成させるにあたって・考察

前期のプロトタイプ作成で培った知識と技術を使い、プロトタイプのブラッシュアップを行った。プロトタイプ作成時の考察でも記載した通り、何か話題作りとなるような仕掛けを実装しようと考えた。そこで考えたのが1号館の構造はそのままに、その壁に写真を貼っていく、さながら美術館や展示会のような空間を作ることだった。どういった写真を展示すれば会話を促すことができるかと考えたときに、対象とするユーザーが専修大学のネットワーク情報学部の生徒であったため、本物の校舎の写真やそこで学校生活を送る学生の様子などを展示すれば話題になるのではないかと考えた。

5.成果物

考察にも書いたように、1号館の校舎を再現した仮想空間を製作すると同時に、その空間に写真の展示を行った。ここでいう写真には私や私の同級生などの思い出の写真を選択した。こうする事によって私達の思い出を保存したタイムカプセルとしての役割と果たし、後にここに訪れた時の話題作りに貢献してくれると考えられる。

図2 仮想空間に製作した1号館端末室3の様子

 

また、私達に限らずこれから入学する生徒や私達とは別の学年の生徒達がここを訪れた時にも、その様子を見る事で数年前の1号館はどのような感じであったのか、先輩にあたる私達がどのようにこのキャンパスで生活をしてきたのかをうかがい知ることができ、そうした意味でも会話の話題作りに一役買ってくれるのではないかと考えた。自分自身この制作をしてみて入構禁止となっていた構内を思い浮かべることができ、これを実際に体験した同級生からも懐かしい、早く入構できるようになってほしいなどの反応をもらうことができた。

6.考察

今回は簡素に1号館を再現するという作品としてまとめたが、次の段階としては、自身でオブジェクトのモデリングを行うことで細部までの再現をし、専修大学ネットワーク情報学部の生徒だからこそわかるものの再現を行いより会話の話題としての質を深めて行ければ良いと思っている。

7.おわりに

本年度はコロナ禍ということもあり、求められる物が大きく変わる1年になったと感じている。そのため今までは目を向けられなかった分野なども人々に必要にされるようになり、こうしたオンラインで家にいながらでもインフォーマルなコミュニケーションを行える場の需要というのも増えたと感じる。しかしこの流れはコロナが落ち着いたからといって収まるものではなく、むしろ今後はこうしたオンラインで完結するようなものこそ求められる傾向になっていくのではないかと考えられる。

この研究を通して、というよりも本年度を通して、コミュニケーションの重要性を改めて思い知った。コロナ禍で直接会ってのコミュニケーションが出来ないという環境では、学生の精神衛生上も良くない。実際に同プロジェクトの学生達もかなり気が滅入っている様子だった。コミュニケーションとは人を人たらしめる重要な行為であると同時に、それ自体が娯楽としての役割と果たしている。今回私がおこなった研究もそうだが、コミュニケーションを取るためのツールというものが年々増えていくだろう。そうしたものに触れる機会を増やし、順応していけるようになるためにとてもいい経験をできたのではないかと満足している。

参考文献

コロナ禍後の社会変化と 期待されるイノベーション像:経済産業省https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/sangyo_gijutsu/kenkyu_inn ovation/pdf/019_02_00.pdf

[2]バーチャル SNS「cluster」
https://cluster.mu/

[3]バーチャルムサビ展|バーチャル SNS cluster(クラスター)
https://cluster.mu/w/58a2d040-74c3-42b5-9f35-002263438fb0