弱いプロデューサー −他者と関わり合う撮影体験より作られるMy写真集のプロセス−

Keywords:コミュニケーション, 写真集, 共同性

1.はじめに

一般的に写真集とは、被写体が一人いて、全体をまとめるプロデューサーがいて、フォトグラファーが一人もしくは数人いて制作される。プロデューサーがコンセプトを決め、それに沿ってロケ場所や衣装などが決定し、専門のカメラマンに依頼する。
しかし、今の時代は、一眼レフカメラや高性能なスマートフォンなど、かつてとは比較にならないほど画質の良いカメラが身近になった。また、そうした機材を持つ人たちはみな写真を撮りたがり、自分の腕前を発揮できるような被写体を探している。このような環境では、撮る−撮られるの「役割」も大きく変化し、これまでのように専門家にお願いするのではない新しい形態の写真集が生み出すことができる可能性がうまれることになる。

2.研究の目的

 本研究では、撮影の被写体「モデル」、そしてフォトグラファーへの依頼や制作統括を行う「プロデューサー」を私自身が担当する「My写真集」の制作を行う。この制作プロセスを考察し、新しい形態の写真集が持つ意味を探っていく。

3.先行事例との関連

豊橋技術科学大学の岡田美智男教授の研究に「弱いロボット」というゴミ箱ロボットがある[1]。ロボットと聞くと、なんでもできてしまいそうなイメージだが、岡田教授が作った弱いロボットは人間の力を借りないとゴミを集めることができない。ゴミを見つけるとモーター駆動で床を走り、近づいてくる。しかし、足元のゴミを拾うアームがなく、ゴミを前に体を振り、困った様子をする。それを見た私たち人間は、ゴミ拾ってロボットの中に放り込む。このように人の助けを引き出すロボットなのだ。
私も「My写真集を作りたいプロデューサー」なのだが、大きな力は持っていない。そこで、周りの助けを得ながらMy写真集を完成させようと考えた。

4.調査と考察

先行事例の「弱さ」をキーワードに、2つの点を考察した。まず一つ目は、カメラマンとの「真剣勝負」。写真を撮る人は皆、自分独自の瞬間を切り取ることを目指している。そのため、私はモデルとして、カメラマンとの心理的距離を近づけ、撮られ方を相手に委ねることでお互い真剣に向き合うことができる。
二つ目は、撮影を通した自分自身の変容についてである。「ジョハリの窓[2]」によると自分も相手も知っている「開放の窓」以外に、自分は知っているが相手は知らない「秘密の窓」、自分は気づいていないが相手は知っている「盲点の窓」、自分も相手も知らない「未知の窓」があるという。私自身のイメージを固定しないで、他者の視点によって自分が気づき、変化していくことを受け入れるのである。

5.成果物

図1 ZINE「弱いプロデューサー」

5.1. ZINE「弱いプロデューサー」

いきなり写真集を作るのではなく、プロトタイプとしてZINEを作成した。全8ページの蛇腹冊子にして、A6という小さなサイズで配りやすくした。UXrocketや共愉的瞬間などの展示の時に配ったことにより、ハッシュダグの認知などにつながったと感じた。また、カメラマンに撮ってもらう際に渡して、コンセプトを理解してもらうためにも活用できた。

図2 共愉的瞬間 展示

5.2.「共愉的瞬間」展における展示

幅1.7m×高さ2.0mのポスターを作成し壁に貼り付けた。また、L判写真を200枚印刷し、糸につなげて天井から下げることで、インパクトのある展示を行った。


図3 My写真集「ASSORTMENT」

5.3.My写真集「ASSORTMENT」

最終成果物として、B5サイズ本文58ページの写真集を作成した。印刷所に入稿し、無線綴じのしっかりした冊子が出来上がった。多くのカメラマンに撮影してもらったことが伝わるように、カメラマンごとにページをレイアウトし、最後のクレジットに関わってくれた人全員の名前を入れることで、「弱いプロデューサー」が作った写真集であるということを伝えた。

6.考察

今回の研究では、「モデル」「プロデューサー」「研究者」すべてが私自身であるため3つの視点から考察する。
まず「モデル」としては、カメラマンとの真剣勝負という点で撮られ方をカメラマンに委ねることで、自分の知らなかった「盲点の窓」の自分の表情に出会うことができた。また、写真を通して、自分は知っているが相手は知らない「秘密の窓」の自分を知ってもらうこともできたのではないかと感じた。
「プロデューサー」としては、色んな人にカメラマンをお願いしたり、アドバイスをもらったりなど、弱いプロデューサーとして多くの人に助けてもらった。また、私が場所を指定して撮って欲しい写真を撮ってもらったり、場所・服装・髪型全てをカメラマンに委ねてそのカメラマンが撮りたい私を撮ってもらったりして、モデルの私をプロデュースすることができた。
「研究者」としては、どうしてこんなに多くの人が助けてくれたかの理由の一つにTwitterのハッシュタグが良かったのではないかと考えた。私以外にもカメラマンなどで関わってくれた人がハッシュタグを使って呟くことで、多くの人にこの活動が伝わり、参加したいと思ってもらうことができた。また、今回多くのカメラマンに撮ってもらったが、カメラマン同士の勝負も生まれていて、私が直接関わっていないところでもストーリーができていて面白いと感じた。

7.おわりに

本研究の活動を通して、とても多くの人に助けられた研究だったと感じた。自分の「弱さ」を隠さず、むしろさらけ出すことによって、人の助けや優しさを引き出せたのではないかと考える。学部、大学を超えた人との関わりを作ることができて、とても充実した研究になった。

参考文献

[1]岡田美智男(2012)『弱いロボット』医学書院
[2] 「ジョハリの窓とは」(2018)https://lightworks-blog.com/johari-window