Keywords:Ontological design,服装,振る舞い,映像制作
1.はじめに
現代では、我々の使っているもの・用いているものはほぼ全てデザインされたものである。デザインされたものは使いやすく、我々の生活を助けてくれている。一方で、デザインされたものを身につけている我々の側はどうなるのだろうか。例えば、女性はメイクした時としていない時で気の入り方が変化したり、スーツを着ている時には姿勢までも変化する。これは、我々がデザインしたものに、我々がデザインされているということになる。このような考え方は、Ontological designと呼ばれる[1]。
“Ontology”という概念は工学の分野では使われているが、日本のデザイン分野では言及されることは少ない。それは、Ontological designという概念が分かりづらいという理由や、東洋には古来からあった考え方であるため、気づきにくいということがある。改めて Ontologyの視点を取り入れて日常を見直してみる機会を待つことで、私たちの世界の捉え方は豊かになるのではないかと考えられる。
2.研究の目的
本研究では、Ontological designの考えを元に、装いが変わったことによる人の変化について質的調査を行う。数名の男女を取材し、例えば服装が変わることで、同じことをした場合に振る舞いがどのように変化するのかを観察する。それらを映像としてまとめ、我々が衣服という人工物を身に付けることを決め、同時に衣服に決められているという相互関係について、視聴者にわかりやすく示すことを目的とする。
3.先行事例との関連
服について行われた実験の一つとして、身につけている服の色で思考回路が変わるというものがある[2]。ある期間の間、服の色合いで二つのグループに分けて生活させた。すると、ずっと明るい服を着ていたグループは楽しかった経験を多く思い出し、ずっと暗い服を着ていたグループは悲しかった体験を多く思い出すという結果になった。服の色合いだけでもこのように人間は影響される。しかし、色合いなどに言及しているものはあっても、服の形などに言及しているものはない。本研究においては、色合いだけでなく服の形など他の視点からのアプローチも検討する。
また、コスプレイヤーに向けたアンケートの結果[3]から、普段と比べてコスプレする時自信を持てるようになったという人が7割を超えており、コスプレをするとき自らも自信を持っていると回答した人は8割を超えた。このように、自分から離れた装いをすることで自信や振る舞いに変化が訪れるということがわかる。
4.調査と考察
5名に実際に服についてどのように思っているかという予備的なアンケートを行った。服について詳しく考えると「選択基準がよくわからない」という意見が多かったが「服によって変化させられる」という視点には共感する声があった。また、アンケーを取った対象者とともに服を買いに行く中でインタビューを行った。その結果、服の組み合わせを他人と一緒に選ぶことでワクワク感を得られることや、自ら選びに行きやすくなり、振る舞いが変化することがわかった。
このように、服によって何らかの行動の変化が起こるのではないかと考察される。
5.映像「服に操られてる?」
5.1.概要
服装によって人の行動がどのように変化するのか、視覚的にわかりやすくするという目的のもと映像を制作した。まずイラストを用いたアニメーション映像を制作し、そのパートでOntological designの概念・この映像の目的を説明した。
その後、まずスカート時の行動とズボン時の行動を左右に並べた映像を流した。まず映像を流して視聴者に自分でどのような差があるか考えてもらった後、演者の姿勢を書き足して差がよりわかりやすくなるようにし、ナレーションで解説を入れた。最後にまとめとしてこのことにより今後どのようなことが期待できるか述べた。
5.2.撮影手法
撮影は一眼レフカメラと三脚を用いて撮影を行った。被写体には予め撮影内容を伝えていたため、被写体から“演技っぽさ”をなくすために撮影開始と言う前からずっと撮影し続けることで、出来るだけ自然な状態で撮影した。
5.3.研究室主体の展覧会から
1月10日・11日に研究室主体で行った展覧会では、ポスターと映像の中で同じ行動をしている部分を抜き出して印刷し、目で見て比較できるようにして展示を行った。
6.考察
6.1.人の振る舞いに関する考察
映像からわかるように、スカートとズボンでは態度の大きな差が見られた。スカートの時にはしない行動がズボンの時には見られ、その逆も見られた。主に姿勢や足の態度に差が生まれることでこの差が生まれていることがわかる。これは、スカートとズボンでは足の開き方や姿勢に対する意識が無意識に変わり、スカートの時ではより女性らしく足を閉じ膝も内向きに入るが、ズボンの時はスカートの時よりも足が開かれ、膝はまっすぐ前に剥くことがわかる。
このように、何かしら服装によって同じことをしていても人の振る舞いに変化が起こることがわかる。しかし、その変化を実生活においてどのように生かして行くかについては実証に至らなかった。
6.2.映像に関する考察
映像としては、同じ映像を繰り返して変化をわかりやすくするなど工夫を行ったが、線で人の体の向きを表した部分などは、より動的に表すことができるとよかったと思う。
7.今後の展望
今回、映像の中では女性のスカート、ズボンにおける行動・態度の違いを取り上げた。女性の場合、他の服装のときにはどのような変化が起こるのかと言うことや、同じスカートでも長さによって差が生まれるのかなど考えていきたい。また、男性における服装における振る舞いの差など映像のレパートリーを増やしていきたい。
また、その変化を実生活においてどのように生かして行くかについて実証し、提案していきたい。
8.おわりに
1年間を通し、映像制作だけでなく哲学的な思考やデザイン分野の考えなど様々な勉強をすることができた。映像の中では、演技っぽさをなくすのに苦労したが、ずっと回し続けるという手段をとったことにより自然な映像を取ることができた。
自分の興味の持った服に関するこのような研究ができてよかった。この結果をもとに今後も色々と考えていきたいと思う。
参考文献
[1] Ontological designing – laying the ground (2006) Anne – Marie Wills
https://www.academia.edu/888457/Ontological_designing
[2]Positive-Negative Emotional Categorization of Clothing Color Based on Brightness
https://pdfs.semanticscholar.org/d07c/f149969a88e5b4d4a14eb30c7d0c9440ed89.pdf
[3]日本語・日本語文化研修プログラム研修レポート集(2015) 第30巻 pp.151-162







