万葉集と草木と人をつなぐメディアのデザイン

Keywords:フィールドワーク,メディアのデザイン

1.はじめに

万葉植物園とは、植物園の一種で万葉集に収録される歌に詠まれている植物を植栽し観賞を主なる目的とする場所である。万葉植物園は専修大学にも設置されているが、設置の目的を満たしているとは言えない。
草木は伸び、道は区別がつかなくなっている。さらに、万葉集の歌の説明が一切なく植物との関連性がわからない。そのため単なる植物園となっている。
私はこの廃墟同然の万葉植物園を生涯学習ができる空間へと転化させ、来場する人の体験を向上させたいと考えた。

2.研究の目的

万葉集とは昔の人が感じたことを歌として詠み、その詠まれた歌を大伴家持らが編纂したものとされる。そして、万葉集に掲載された植物のほとんどが昔の人の感情を例えたものになっている。その植物は万葉集のころ(8世紀)から全く変化していない。ということは、植物を介して、昔の人の思いを我々も共有することができる可能性がある。現在の万葉植物園の中に変わらず存在している植物類を介することで、来場者の関心を引くことができるはずである。そこで、本研究では、万葉植物園という場を通じて古代の人の思いと今の人の思いを非同期でつなぐにはどのようなメディアがあり得るかを検討し、そのデザインの提案を行うことを目的とする。

3.先行事例との関連

現在でも運営されている万葉植物園として、市川市万葉植物園がある。
この市川の万葉植物園は手入れが行き届いており美しい。さらに万葉集に記載されている歌が草木の隣に設置されている。そのため歌と関係する草木が一目でわかる仕掛けになっている。しかし、草木の隣に歌があるだけでは、歌を詠んだ昔の人の考えを読み取ることは難しい。万葉集の歌は原文と意味、背景を知らなくては情景が浮かばないからである。
以上から本研究においても、万葉集と草木の関わり方を考察すると共に、来場者が草木を通し万葉集に書かれた歌をイメージできることを目指す。

4.調査

万葉植物園を知るために、毎週1回のペース(計10回)で定期的な観察調査を実施した。その結果、万葉集の歌とは関連がないが、草木は自力で生育し、花を咲かせ木の実を実らせている様子が見えた。また、季節の移り変わりがよく観察でき、5月には藤やツツジが色づき、梅雨には紫陽花や茸類が生えていた。生田緑地と隣接していることから鳥や動物などの生態系も豊かであることがわかった。
つまり、万葉植物園としてはほぼ機能していないが、自然と人間を繋ぐ場としては十分に機能しており、工夫次第で魅力を引き出すことはできると考えた。

5.成果物

5.1.共通コンセプト

フィールドワークを元に、今と昔をつなぐメディアとして鳥を呼ぶ装置「むすばれ」を制作した。
万葉集をイメージした装置に鳥がやってくることで、今の人々が植物園に向かう動機をつくり、そこから万葉集の植物への知識に繋げるという導線をつくりだす。

5.2.共通概要

万葉集から「春されば木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に」の歌を選出し、この歌をイメージした装置を作成した。この歌は山口若麿(やまぐちのわかまろ)が大宰師の大伴旅人(おほとものたびと)の邸宅で開かれた宴席で歌われたものである。解釈は、目に見える梅と目には見えないが鳴き声で楽しませる鶯を出し、優雅な宴会の席を歌ったとされている。

5.3.鳥の役割

万葉集に植物と一緒に登場することがあり、環境が整っている植物園によく訪れる鳥は万葉集と草木の双方と関わりが深い。
また、いつくるかもわからない鳥を見つけた際の人の感情は人為的に行うイベントとは別な感情であり、その感情は万葉植物園と相性がいい。

5.3.「巣箱」

図1「ウメ玩具の巣箱」

図1の巣箱は、鳥の痕跡を目に見える形で残すことができる。鳥がきた時の揺れで「梅の玩具」が地面に落ちる仕掛けになっており、元々地面に落ちている梅の花びらと「梅の玩具」をみることで、鶯と梅の美しさを感じることができるものである。

5.4.「土台」

図2「ウタの礎」

図2のオブジェは、歌を読んだ山口若麿が自分より偉い人が主催する宴で読んだ時の緊張感を表現した。歌の文字を切り出したものと棒と合わせることで、和歌の硬さをやわらげ来場者がより興味を引く。また、このオブジェの上に鳥が巣を作ってくれる想定である。

5.5.「屋根」

図3「太宰府の屋根」

図3のオブジェは、木の枝に設置することで鳥が雨風を避けることができるものである。当初は巣箱を考えていたが巣箱では繁殖期にしか鳥が訪れることないため、鳥に気軽に休める場所ということで作成した。また、表面に歌が読まれた大伴旅人(おほとものたびと)の邸宅を、裏目面には、宴の様子が伝わるよう木を彫刻した。

6.考察

今回、「春されば木末隠りて鴬ぞ鳴きて去ぬなる梅が下枝に」という一つの歌に関して絞り深く掘り下げることができ、万葉集と草木の繋がりを鳥と結びつけることができた。しかし、専修大学の万葉植物園は本来四季の移り変わりが感じることができる場所であり、万葉集自体も四季の美しい表現ことが特徴であるため、歌の数を増やすことをしなくてはならない。
この研究では、万葉集と草木と人をつなぐメディアのデザインをテーマにしており、万葉植物園の広報のついて触れることができなかったので今後は来場者の導線について考えなくてはならない。

7.おわりに

今回、万葉集と草木と人をつなぐメディアのデザインを考え、鳥という人がコントロールできないものを主としておくことにより、予測できない面白さや、様々な考え方が重要であると知った。

参考文献

[1]中西進 2010 『古代史で楽しむ万葉集』 角川ソフィア文庫
[2] 「生物多様性に配慮した建築」を通した環境教育 2016年 日本建築学会技術報告集 第 22 巻 第 52 号,1159-1164,