微生物による発酵プロセスへの理解を深めるための デザイン提案

Keywords: 発酵,発酵プロセス,食文化,デザイン

 1.はじめに

現代の日本では食の重要性が強く意識されている。その発展した食文化の中に、人間と共に古くから発展していった発酵文化がある。発酵とは、酵母や細菌が自らの力で分解し、食べ物に旨味をもたらす人間にとって有用な現象である。多くの食物には、我々人間の想像を超えた微生物の力が働いている。しかし、この発酵の分解作用を説明するには、子供や若者には馴染みにくく理解がしづらいという問題がある。我々の発酵への理解を深めるために馴染みやすく表現、デザインすることができるならば、我々は食べるという文化のより良さ、そして目に見えない現象と一体となった生態系の一部であることを感じることができるのではないだろうか。

2.研究の目的

本研究では、発酵に対する理解を深めるためのデザイン提案を行う。発酵に対する理解が少ない若者層を主な対象として、身近な発酵食品である天然酵母パンを題材に取り上げる。微生物の作用によって発酵していくプロセスを楽しく表したレシピや読み物をデザインすることで、発酵への理解を深め、親しみをつくることを目的とする。

3.先行事例との関連

発酵食品を文化人類学の観点から見直し、我々に発酵の魅力を伝える発酵デザイナーである小倉ヒラクさんとう方がいる[1]。小倉さんの数々の作品の中でも手前味噌に着目し見えない発酵菌たちのはたらきをデザインすることで見えるようにすることを目指し、発酵の楽しみの本質はプロセスにあるとしている。発酵への理解を深めるという点において、発酵プロセスに自分が関わる体験が重要であることがわかる。しかし、味噌は穏やかな発酵であり様子を分かりやすく見ることができない。そこで、本研究では発酵に馴染みの少ない若者層を対象とし、発酵による変化、過程を自身の目で見て体験をできるものを対象とする。

4.調査

4.1.前期の調査

前期では、本研究における発酵の仕組みをまずは体験し理解するために、フルーツを使用した天然酵母を自らの手で作りパンを作ることで発酵の様子を記録した。記録方法として、動画や写真を使用して発酵の様子を撮影した。この調査によって、私たちはパンを作る際には「パンが膨らむ」という視覚的情報で発酵を目の当たりにすることができるとわかった。

図1.2 天然酵母を使用したパンの制作

4.2.後期の調査

後期では、前期に天然酵母からパンをつくるという調査を行ったことで、本研究における研究の目的である発酵に対する理解を深めるためのデザイン提案へのアプローチへの調査を行った。前期の調査で発酵に対する理解を深めるためには、自分の手でつくること体験することが大切であるということがわかった。そのため、後期では、天然酵母からパンを作るという行為の中で、自分の手でつくるサポートを行うためのデザインを思考した。主に調査の対象として、料理を楽しくサポートしている絵本の表現方法を調査することや、遊びながら学ぶというゲーム感覚のサポートツールを調査した。

5.成果物

5.1.「Peconnectぺこねくと」

私たちがパンを作って自分で食べる際、パンを美味しく「Pecoriぺこり」と食べる瞬間とそのパンができるまでの過程を「connect繋げる」ということをコンセプトとしたランチョンマットのデザイン提案を行った。

本研究の目的である発酵プロセスへの理解を深めるために最も重要であると考えられる自分の手でつくるという行為をサポートするためのデザインである。「天然酵母を使ってパンを手作りする」という行為において「天然酵母を作る」過程、「観察する」過程、「パンを作る」過程、「記録する」過程、「美味しく食べる」過程、「共有する」過程、を全てこのPeconnectを使用することで実現することができるようになっている。

図3 「Peconnectぺこねくと」

5.2.デザイン展望

今回デザイン提案を行った.発酵プロセスへの理解を深めるためのPeconnectというランチョンマットは、使用する人に応じた活用の仕方をもっている。自分自身の手でつくりあげるという天然酵母を使用したパンの発酵において、前期の調査を踏まえ、パンを作る過程を楽しくするために自分で作る過程を記録するという点において他者との共有による活用の仕方が今後も考えられる。

6.活動結果

6.1.活動結果

2019年4月から自らの手で天然酵母を使用したパンの発酵を体験する調査を行った。その中でパンの発酵には多くの変化があることがわかった。そこで、世の中のパンへの調査を行うためにパンを作ったことのある人をはじめ、全くパンを作ったことのない人にも「発酵」におけるイメージのアンケート調査を行った。本研究のテーマである若者達の発酵への理解を確認することを目的とし、周囲へのアンケート調査を行った。対象者は20〜22歳の大学生男女8人とした。(1) あなたは発酵を知っているか。(2)あなたは発酵へのイメージは良いか悪いか。(3) あなたは発酵に対して具体的にどのようなイメージをもっているか。以上3点で調査を行った結果、(1)全員が「知っている」(2)全員が「良い」(3)半数以上が「詳しく知らない、大変そう、面倒に感じる」と答えた。今回の活動結果として、発酵プロセスへの理解を深めるためのデザイン提案とは、発酵に対して楽しく感じてもらえるかどうかが重要であった。また、Peconnectを使用しながら自分の手でつくることで発酵に対するイメージが親しみやすく楽しいものとなった。

6.2.考察

文献やさまざまなアンケートによる調査では若者の発酵に対する理解は、すべての人が発酵という言葉を認知はしているが、詳しく理解はしていないということが分かった。しかし、自分の手でつくることによって発酵に対して私たちは具体にイメージができるようになる。結果として発酵の過程を理解することへ繋がる。

7.考察と今後の課題

発酵プロセスへの理解を深めるためのデザイン提案を研究として行ったが、発酵の過程には毎回それぞれの形があり変化があることが調査によって判明した。その変化をより表現することができたならば、私たちは発酵に対して理解を深めることができると考えられる。

8.おわりに

本研究の活動を通して、発酵プロセスへの理解を深めるためのデザイン提案を行った。発酵プロセスによる理解を深めるためには、文献や実際の体験による調査から、パンを作ることを自分の手で体験しながら記録し実感を得ることが重要であるとわかった。過程を記録することで、私たちの豊かな食文化には微生物たちの働きが大きく関わっていることをより感じることができる。人間の力ではデザインすることのできない微生物による発酵の力を感じながら食と関わることで、いつものパンが今日はいつも以上の旨味と感動を与えてくれるだろう。

参考文献

[1] 発酵文化人類学 2017 木楽舎
[2] 発酵の技法 世界の発酵食品と発酵文化の探求 2016 オーム社