
Keywords:ものづくり, 共創, コ・クリエーション, 伝統工芸
はじめに
日本の伝統工芸産業は、私たちのライフスタイルの変化や海外からの安価な輸入品の増大によって需要の減少が始まり、高い技術力を持ち合わせているにも拘わらずその知名度や価値は下降し続けている。同時に、ものづくりをする職人が活躍できるフィールドはより限定的になり、彼らが評価されにくい状況になってきている。その一方で、一般人の間ではFabLab等の広がりによる「ものづくり」ムーブメントが徐々に拡大しつつある。パーソナライズされた一点物を手軽に作ることができる体験は、ものづくりを職業としない多くの人々の創造性も刺激している。こうした状況を踏まえて、職人と一般人、両者の創作意欲を引き合わせた共創(コ・クリエーション)には 今後の伝統工芸産業及び地域のものづくり文化の発展において大きな可能性があると考えた。本研究ではそれを引き起こすことを目的としたウェブサービスの提案を行った。

1.研究の目的
本研究では、伝統工芸の職人とこれまで接点の無かったユーザーとの関係を構築するウェブサービスの試作を行う。サービスの具体化を通して、彼ら職人が今までの自身のフィールドのみだけでなく、よりも広い範囲で活躍できる可能性を指摘する。次いで職人間や企業、またはその他我々の想像のつかない部分での新たなコ・クリエーションのあり方についての検討を行い、職人とそのコミュニティおよび社会に対してそれを提案することを目的とする。

2.調査と分析
神奈川県小田原市とその付近には小規模な伝統工芸の工房やその職人が多数存在している。はじめに鋳物研究所を訪問して観察とインタビュー調査を行った。伝統工芸品はその製造方法から、大量生産には向かないものが多く、鋳物もその例外ではない。また、鋳物はその特性上、特注製品や新製品の製造をする場合には型を一から作る必要があるため大きなコストが掛かってしまう。
有名観光地の伝統工芸産業と比較したとき、人や場所等が圧倒的に不足していることが伺える。また、技術を持ち合わせた限られた職人間のみでの情報交換や従来通りの製造方法に頼る場合、商品開発コストが非常に高いだけでなく、個人や企業が介入しにくいものとなってしまうため個人や企業が介入しやすいよう、何らかの工夫が必要となる。
3.成果物コンセプト
ユーザーが職人へコンタクトを取った後に仕事の依頼、イベント、企画などの「具体的な行動が発生する」ことを狙いとする。そこで、従来の職人のイメージである「取り付きにくさ」や「頑固さ」を排除した、現代的なデザインを取り入れることとした。

4.小田原共創局
対象の職人へのインタビュー及びプロダクトを掲載し、まずはユーザーに興味を持ってもらうことを第一とする。その上で体験教室への申し込みや、興味を抱いたユーザーの個人連絡などによってユーザーからの職人へのアプローチを実現させる。サービス名については「共創」の文化が今回の対象である小田原のみならず、他の地域に浸透して欲しいという願いから、機構を分割する単位である「局」を使用し、本研究では小田原をその先駆けとして提案サービス名を「小田原共創局」とした。
ユーザーがウェブサービスを使用し共創を実現させる流れは、職人のインタビュー及び、プロダクトを閲覧してもらった後、職人へのコンタクトを取るというものである。この際、体験授業やワークショップなどによる参加型のイベントの開催告知とその予約によって、ユーザーがより手軽にコンタクトを取れるような工夫を施した。

5.評価と考察
本研究の評価は主に小田原の職人及びその関係者数名とのヒアリングをもって決定する。具体的には以下の3項目を検討する。
- 従来のインタビュー記事のデザインに捉われない見やすいものであるか
- コンセプト通りユーザーの誘導がなされているか
- リリース後になんらかの行動が現れたか
小田原共創局の構想、仕組みについては多くの職人及びその関係者に賛同を得ると同時に、制作の協力をしていただくことに成功した。しかし、成果物として出来上がったものの、リリース後の経過を追って観察することができなかったのは期待が大きかった分、非常に残念であった。ユーザーが職人へ会うまでの導線は引くことができたが、前述の通り長期間の経過を観察することができなかったため、有効であるかどうかの判断は難しい。
研究の過程では幾つかの課題が見つかった。仮にユーザーとのやりとりが数多く発生した場合の、それらに対応する職人のリソース不足及び、それに付随する従来商品の生産力低下は大きな問題である。フィールドを広げた分、その環境に対応するため従業員を増やす必要があるだろう。しかし、長期的な育成が必要となる厳しい伝統工芸産業である以上、容易に弟子を増やすことはできない。とはいえ業界全体として活気が薄れつつあるという事実がある以上、従来通り「少数精鋭」で伝統産業を渡り歩くのはもはや困難な時代なのかもしれない。

おわりに
10年先を見据えた時、日本の伝統的なものづくりが生き残るかどうかは変化を受け入れられるかどうかにかかっている。教育環境の整備が難しい自社で従業員を増やすことはできずとも、あらゆる分野の協力者を増やすことは可能であるはずだ。職人を取り巻く環境はその協力者を増やすことによって変化し、彼らは今まで以上にものづくりに集中することができる。共創を目指すメリットは新商品の開発やブランドの立ち上げだけではない。その本質は、これまで閉鎖的であった職人たちのものづくり文化の元に新しい文化や考えを運ぶ手助けとなることにある。本研究では成果物とそれに対する職人の評価をもって未来におけるその可能性を示すことができた。