社会内における個人の絶対的立ち位置を示すビジュアライゼーションシステム

社会内における個人の絶対的立ち位置を示すビジュアライゼーションシステム
Keywords:オープンデータ, 介在感, Wikipedia, スマートウォッチ

1.はじめに

 国際機関や政府、自治体をはじめとする各種団体から、統一形式による統計データが提供されるようになった[1]。これらは「オープンデータ」と呼ばれ、誰でも自由に活用することが期待されている。民間・企業問わず様々な活用例が模索されているが、これらのデータを利用して効果的な表現を実現した事例はまだ少ないと言える。
 現状のオープンデータの問題は、人々は生のデータを見ただけでは「行動」には及ばないという点である。この原因として「介在感」の不足が挙げられるのではないだろうか。データの中に自分自身が含まれているという実感を持ちづらいため、印象がマクロな認識として独立してしまい、自分自身の認識(ミクロな認識)への転化が達成されないと考えている。
本研究では「介在感の追加」というコンセプトのもと、介在感を演出する情報として「ユーザの年齢」を利用し、オープンデータ(Wikipedia[2])の情報をより自分ごととして認識させるための取り組みを行った。

2.研究の目的

 本研究において作成したソフトウェアは、Wikipediaにおける歴史上のイベントをその首謀者の生年日と連付け、歴史上の人物がイベントを起こした年齢とユーザの現年齢が重なる365日のうちいずれか1日において、午前8時に歴史上のイベントの情報を発信する。
 このソフトウェアの目的は、ユーザに対して先述した介在感をもった情報を提供することである。この場合における介在感とは、歴史上の人物の年齢が自分と同じであるという情報のことである。
介在感を付与した結果、単に歴史上のイベントの情報に接するよりも、より自分にかかわりの深い情報として認知させることを目的とする。

3.先行事例

 本研究の類似事例としてTimeline[3]が挙げられる。これは日々のニュースに対して過去の情報を並べて表示するニュースアプリである。本研究とはユーザプロフィールの利用がないという点で異なったアプローチである。しかし、認識の補助材料を何らかの手段で提供しているという点においては近いものといえる。
 また、byus(バイアス)[4]というアプリも存在する。これは、日々のニュースに対して質問を投げることができるアプリである。そうして投げられた質問に回答することもできる。これも、認識の補助材料をQ&Aという形で提供した例であるといえるのではないだろうか。

4.開発について

4.1.データソースについて

 データソースは、Wikipediaを直接扱うのではなく、そのLOD[5]版であるDBPedia[6]を採用した。DBPediaを採用した理由は、歴史上の人物の生年月日をもとにイベントを抽出するためにはデータが構造化されていなければならず、SPARQL[7]でアクセスできるDBPediaはこの用途に最適であると判断したためである。

4.2.開発言語について

 バックエンドの開発言語はPHP[8]を採用した。PHPを採用した理由は、SPARQLへのアクセスを可能にするライブラリが存在し、かつ個人的にも書きなれていた為である。また、日本語の処理が比較的容易であることも理由となった。

4.3.Android Wearについて

 本研究では、バックエンドソフトから受け取った歴史上のイベントの情報をユーザが受け取るためのデバイスとしてAndroid Wear[9](以下Wear)を含んだ。基本的にはメールで配信されるため、一般的なスマートフォンやパーソナルコンピュータでも受信可能だが、Wearにおいては表示をより工夫することで最適化がなされている。
 Wearに着目した理由としては、スマートフォンよりも確認頻度の高い時計というデバイスが、本研究において送信される「ユーザに気づきを与える」情報を確認する用途においては最適だと判断したためである。

5.成果物概要

5.1.バックエンドソフトの基本動作

 バックエンドソフトは、以下の動作を行う。まず、ユーザは自分の生年月日の情報をフォームから入力する。この段階ではインターフェース側HTMLである。そのため、スマートフォンならびにパーソナルコンピュータからの入力を想定している。次に、その情報をもとにサーバー側でバックエンドソフトがDBPediaから歴史上の人物がイベントを起こした年齢とユーザの年齢が同一のものをSPARQLで検索する。最終的に、該当する検索結果を抜き取ったうち、タイトルつきのテキストとして整形し、偉人の画像と共にユーザのメールアドレスへ情報を配信する。1年を通じて毎日午前8時に配信を行うものとした。時間設定の理由は、通勤中のサラリーマンをメインターゲットとして設定した経緯からである。

5.2.Android Wearの基本動作

Android Wearにおける表示
図1 Android Wearにおける表示

 Wearにおいては、バックエンドソフトから配信されたテキスト情報をもとに、ユーザに対してより訴求する形での情報表示を行う(図1)。具体的には、偉人の画像を大きく利用した上で、より視覚に訴えるようなものを目指した。Wearでは、スマートフォンやパーソナルコンピュータと比べて表示できる情報の絶対量が少ないため、それを考慮した上でデザインを行った。テキストはファーストビューの状態では一部が隠れてしまうことが多いが、その場合はユーザがスクロール動作を行うことによって全文を閲覧することができる。

6.評価と考察

 本研究における評価と考察は、ソフトウェアの一般公開が期日までに達成できなかった結果として、私自身の仮説に基づく評価しかできず、客観性にかけるものとなった。また、このアプリケーションを必要としているユーザ層が誰なのか、実際に世界にこのソフトウェアをリリースしてからでないとわからない部分が多く、実際の想定ユーザによる検証もできなかった。結果として、単なるアイデアの実装となってしまったことは否めない事実である。当初の介在感による問題解決については、その有効性の検証において実際の想定ユーザへの長期のテストが必要であったことが明らかであるため、現状においては有効性の根拠を示すことができない。付け加えるならば、私個人の感想や、周囲の知人による定性的な感想としては、単にWikipediaを読み進めるよりも自分ごととしての認知が得られるという意見が多かった。

注釈
[1] 電子行政オープンデータ戦略 –
[2] Wikipedia –
[3] Timeline -z [4] byus(バイアス) – < http://byus.me/ >
[5] Linked Open Data –
[6] DBPedia – < http://ja.dbpedia.org/ >
[7] RDF 用クエリ言語 SPARQL –
[8] PHP とはなんでしょう? –
[9] Android Wear –