価値観を再考する<インフラ自分ごと化>のための デザイン提案

Keywords: コンヴィヴィアル,不便益,電力


[NE30-0222B/CDプログラム]

1.はじめに

人間は「生活をより便利に、よりラクに」することを求めて文明を発展させてきたが、その裏にある犠牲について考えることは少ない。例えば携帯電話は電源を必要とする。その電気は火力発電によって賄われており、その過程で排出される大量のCO2は気候変動の原因ともなっている。多くの犠牲の上に日々の便利な生活があることやそのあたりまえを自分で変える手段があることを知らないことが大きな問題である。便利な生活によって不可視化された因果関係を見ることで、自らの行動や現在の価値観を再考する機会が求められている。そこで、これまで享受するだけの関係であった電力を得るまでの背景と環境や人々へ与える影響への理解を身近にすることを示した<インフラ自分ごと化>を提案する。それは、生活に必要な電力の使用を省みて意識の変革を狙うことが望める。日々の生活の延長線上で、地球環境をよりよくしていくための行動を誘発する新たな<インフラ自分ごと化>の形をデザインできると考える。

2.研究の目的

基本研究では、日々の生活の前提を問い直すことを意識させるような仕組みのデザインに取り組む。これによって消費電力とそれに伴う自然環境等の影響を可視化し、電力使用に対する当たり前を問い直し、再考するための機会となることを目指す。

3.調査

3.1.先行事例との関連

電力を自分ごと化する提案をした事例として「わがや電力 12歳からとりかかる太陽光発電の入門書[2]」がある。本書では簡単な発電の仕組みを提案しているが、本格的な設備とお金を必要としており、好奇心は生むがすぐに実践できるものではない。便利な生活が多くの犠牲を生み出していることを実感させるためにも、より手軽で取りかかりやすいプロダクトを提案する必要がある。

3.2.不便益を取り上げた調査

<インフラ自分ごと化>は、電気を使うだけの便利な生活の当たり前を再考し、自らできることに取り組むことを誘発するものである。そこで、便利なものを不便にする体験を行い、すぐに欲しいものが手に入る当たり前の環境に、不便を持ち込むことに対する心境や行動の変化の考察を行った。そこで豆から味噌作り体験をした。一度面倒を知ると二回目以降に行動に移す際に好奇心だけではない「面倒くさい」という苦痛が伴うことが分かった。何かのためにやらなければいけないと意気込んで取り組むことは、長続きさせることが困難であると考える。価値を再考し意識と行動を少しずつ変えていくためにも、日々の生活とのちょうどいい関係の中で取り組むことを模索する必要がある。そこで、コンヴィヴィアルという考えに着目する。その調査と分析は以下で述べていく。

4.検証

4.1.先行事例との関連

コンヴィヴィアルとは、自立共生的な、友好的な、ちょうどいい関係性、宴会、ご馳走などの意味を持つ。フィンランドの豊かな食とそこに生きる仲間たちとの関係性をコンヴィヴィアルとして説明した「ムーミンの食卓とコンヴィヴィアル展」が事例として挙げられる。ここでは、「食」を通して仲間と賑やかに過ごす時間も、孤独に一人で過ごす瞬間もコンヴィヴィアルであると説明している。その関係性は、共に生きて行かなければならないという強制感のある姿勢ではなく、やりたいこと好きなことに対して素直に行動する自然で緩やかな関係性である。このちょうどいい関係性を電力と日々の生活においても取り入れることで、暮らしの延長線上で無理なく地球環境をよりよくしていく行動を誘発できるのではないかと考える。

4.2.コンヴィヴィアルの実践

不便益の調査で仕込んだ味噌を利用してコンヴィヴィアルな体験を作りだすことで、調査で得られた面倒臭いという感情に対してどのような変化が得られたか考察する。そこで伝統的な芋煮会をヒントに「みほ煮会」というものを開催した。作った味噌を芋煮にし、研究室のメンバーに振る舞うというものである。コロナ禍の状況を鑑み、実際に食すことはせず雰囲気だけを作り出した。結果として、自分自身が作ったものを通して、場所を準備したり豆が味噌になったことに対して感想を話したり、想像以上に仲間たちと充実した時間を過ごせた。この体験から、また何かを作って誰かと共有し楽しむ空間を作りたいという心境の変化があった。自分の行動の先に何が起きるのか、どのような変化を周囲に起こせるのかを知ることは、一つの行動の起因となり得ると考える.

画像1.みほ煮会の様子

5.成果物

5.1.インフォグラフィックス

電力消費に関する現状と、私が想定する未来を情報としてまとめ対比させたインフォグラフィックスを制作した。

画像2.インフォグラフィック

5.2 マイ電力made in me

スーパーに商品が陳列されているその隣で自ら電力を生産するキットが当たり前に陳列されるそのような未来が来ることを描いている。電力が自分ごと化され、依存から脱却し、一人一人が自立して毎日の生活を過ごすことが当たり前となることを想定したプロダクトである。

画像3.マイ電力made in me

6.今後の展望

これまでの研究の成果をまとめ、サテライトキャンパスにて発表し複数の方から意見を得た。そこで得た意見として、電力と自然環境と日々の生活とのちょうどいい関係を更に広めていく必要があるということである。日々の生活の延長線上でちょうどよく取り組むことは、気づかないところで意外にもほとんどの人が取り組んでいる。例えば、運動のために一駅歩く行為も結果的には電力消費を抑えることにつながっている。このような日々の小さな行動とそれに伴う価値を紐付け、よりよい行動を意識するきっかけにするために、アンケートなどで多数の日々の事例を集める。そしてそれをカテゴライズ化することで、SDGsの17の目標のより身近で親しみやすい目標を示すことができると考える。そうすることにより、日々の生活の延長線上で、地球環境によりよい行動を誘発するための一つのきっかけになり得ると想定する。

6.おわりに

インフラという身近にありながらもその現実に目を向けることがない現状を少しでも日々の生活と距離を縮めることを考えるのは難しくもあった取り組みがいがあった。サステナブルな社会やSDGsなど様々なことが謳われるようになった今だからこそ、一人一人の生活レベルでできることはないかこれからも模索していきたい。

参考文献

[1]緒方壽人(2021).コンヴィヴィアル・テクノロジー ――人間とテクノロジーが共に生きる社会へーー 株式会社ビー・エヌ・エヌ

[2]テンダー(2015).わがや電力――12歳からとりかかる太陽光発電の入門書(やわらかめ)ヨホホ研究所