<矛盾>に着目したプロダクトのデザイン提案

Keywords: 矛盾、プロダクトデザイン、アイデア


[NE30-0234E/CDプログラム]

1.はじめに

私たちの生活は多くのモノで溢れ、その恩恵によって快適に過ごすことができている。しかし、均質で安価な大量生産の利点と引き換えに、代わり映えのしない均一な風景が作り出され、多様性を失ったのも事実である[1]。モノとの関わりあいが人間を前進させてきたのであり、多様な関係性を取り戻さなくてはならない。そこで筆者は、モノづくりに「矛盾」を取り入れることで常識に囚われない関係を作り出すことを試みる。対立しているモノを1つのプロダクトに合わせることで、モノの見方や使い方が変わってくると考えた。
矛盾とは、「事の前後が食い違うことのたとえ。つじつまの合わないことのたとえ」[2]である。矛盾めいた例を挙げると、アナログレコードの復権がある。昨今デジタル化が進みどこでも定額で音楽を聞けるようになった一方で、コピーも持ち運びも困難なアナログ盤の売上は伸び続けている。この観点からは、技術的な進歩だけでは、人の気持ちを豊かにすることはできないという捉え方もできる。
また、正反対の要素を並べることは、利用者を「葛藤」に直面させ、強いインパクトを与えることができる。筆者は、このインパクトからまったく新しいモノを考案、制作し、モノづくりにおける新たなアプローチを試みる。

2.研究の目的

本研究では、矛盾の要素を内包した新たなプロダクトを考案、デザインすることで、そのおもしろさとモノづくりにおける新たな見方を提示することを目的とする。

3.調査

3.1. 先行事例との関連

既存のモノや空間や街を編集し、改変し、工夫することでデザインする提案事例として「工夫の連続ーストレンジDIYマニュアルー」[1]が挙げられる。本書では、「デザインは工夫である」と定義付けている。物事の捉え方や観察の仕方に気がつけば、あらゆるものは工夫できるとしてペン立てのような小物からスツールのような家具、大きな屋根などをできるだけ簡単に作り実践するための方法を紹介している。
既存のモノから新しく生まれ変わるモノとして本書を参考に、矛盾という観点から新たなモノを生み出すことでこれまでにない見方や利便性のあるモノを生み出せるのではないかと考える。
また矛盾したプロダクトの実例としては、デジタルとアナログという観点からDispoというアプリケーションが挙げられる。
このアプリケーションは、使い捨てカメラから着想を得た写真SNSである。特徴としては、昔のインスタントカメラのようなレトロな雰囲気の写真が撮影できることはもちろん撮影した写真は翌日9時に見ることができる制限を設けることやカメラロールは公開もプライベートも設定自由で、様々なコミュニティで写真を共有できる特徴がある。[3]
この矛盾によって付加価値を生み出している。それは、携帯(デジタルな要素)と撮った後すぐに写真の確認ができない時間の制限(アナログな要素)によって、うまく撮影しようとする概念よりも、今を切り取るという写真撮影本来の楽しみ方を引き出している。
このように、矛盾によって新たなプロダクトを生む可能性がある。この研究では矛盾の要素から新たなプロダクトを生み出していきたいと考えている。

3.2.矛盾プロダクトの具体例

ドイツの養護施設には、偽のバス停[4]がある。文字通り偽のバス停であるためバスは来ない。このプロダクトは、勝手に家を出て行ってしまうアルツハイマー病患者のために生み出されたものである。存在しない家や家族のところに帰ろうとして行方不明になることを防ぐ効果がある。
このプロダクトは一見だましに見えるが、記憶障害の人にとって必要なことは真実より寄り添うことである。
このように矛盾をうまく組み合わせることで、新たな価値が生まれる。

4.成果物

4.1.日時計傘

日時計は時間を計測するため晴れの日に使用する。一方、傘は主に雨を防ぐため雨の日に使用する。この矛盾から生まれたのが日時計傘である。実際に時間を計測することが可能であり、コマ型日時計を元に制作をした。

図1.日時計傘

4.2.育ててはいけない花

花は常に手入れが必要である。しかし、このプロダクトは、水をあげることによって枯れてしまう矛盾がある。

図2.育ててはいけない花

4.3.持てないコップ

取手付きのコップに水を入れると取手が取れてしまう仕組みになっており、飲みたくても飲めない矛盾的なジョークグッズである。

図3.持てないコップ

4.4.誰でもビール

飲み会の席でビールを飲めない人がいる。そのような人に向けて、飲んでいる気分にさせるプロダクトを考案した。

図4.誰でもビール

4.5.芝生まくら

自粛により外に出る機会が少なくなった。そこで家でも外の気分を味わえるプロダクトを考案した。

図5.芝生まくら

図6.展示会の様子

5.おわりに

本研究では、新たなプロダクトを生み出す目的として矛盾の要素を取り入れる研究を始めた。しかし、研究を進めているうちに矛盾に固執することで新たなプロダクトが生まれにくいことがわかった。この研究の成果にある通り「矛盾」と言い切れないプロダクトも多くある。そこで筆者は「矛盾的プロダクト」として制作した。一方、矛盾の要素を内包することで斬新なプロダクトも生まれた。そのため、新たなプロダクトを生み出すときの1つの見方としては成功であった。これから多くの人がクリエイティブに挑戦していき、既存のモノに囚われない新たなモノを生みだすことを願っている。

図7.コンセプトイメージ

参考文献

[1]元木大輔,(2020),『工夫の連続ーストレンジDIYマニュアルー』,株式会社晶文社,p.88~p.90

[2]矛盾,コトバンク, 故事成語を知る辞典「矛盾」の解説,
https://kotobank.jp/word/%E7%9F%9B%E7%9B%BE-140478

[3] VIVA! DRONE,(2021/04/19),Dispo(ディスポ)とは?「今」を楽しむ、新世代写真SNSの特徴や使い方を解説,

Dispo(ディスポ)とは?「今」を楽しむ、新世代写真SNSの特徴や使い方を解説

[4]木村つぐみ,(2017/09/21),偽のバス停で「帰れる」と錯覚。認知症患者の行方不明を防止する,
https://ideasforgood.jp/2017/09/21/fake-bus-stop/