令和備忘録:時代を映す鏡としてのグラフィックデザイン


Keywords:新聞,グラフィックデザイン,時事ネタ,社会


[NE30-0094D/MPプログラム]

1.はじめに


社会の中では毎日新たな出来事やニュースが流れている。
私たちは社会の様々な情報を得る事によって社会の流れを把握し、真偽を判断した上で情報の取捨選択を行なっている。しかし受け取った情報は日々起きている問題や出来事によって新しいものに埋もれていき、人々の記憶の中から忘れられていってしまう。情報過多の社会では一つの出来事について長期的に記憶する事が難しく、新しい情報が入ってきたと同時に今までの情報を捨てる生活を強いられている[1]
こうした社会で大量に流れ忘れられていく出来事やニュースは、幅広い層の人々が日々触れ合っており、それらを振り返り思い出す事で教訓を得られるのではないだろうか。また文字だけで記録するのではなく、グラフィックデザインを用いる事で出来事やニュースの視覚化を行い、情報を受け取るハードルを下げる事で、社会の幅広い層が楽しく振り返り、当時の出来事と世論の両面を理解できるようなコンテンツがあると良いと考えている。

2.研究の目的

本研究では、日々発信され急速に忘れられていく社会のニュースや時事ネタを記録し、それらを新聞の形式にそってひと月ごとに一枚のグラフィックスとして視覚化された備忘録を制作する。
グラフィックデザインの手法を用い 、新聞形式にすることによって急激に流れる社会の様子 を幅広い層が楽しく閲覧できるようにする。また1ヶ月の出来事を一枚に圧縮することで、同じ時代を生きた人々で共有可能なストーリーへと変え、ふりかえるためのコンテンツとして提示することを目的とする。

3.調査

3.1.先行事例との関連

「みんなが忘れたニュース」は、Twitter内のネガティブなツイートに対し注目されない期間が1ヶ月程経つと、サイト内にそのキーワードやツイートが掲載されるというものである[2]
コンテンツ製作者の河本健氏は、サイト説明にて過去の炎上を蒸し返したり、忘れてしまった人を笑うためのサイトではなく、「一ヶ月前怒ってたこれ、忘れてよかったのかな?」という振り返りを促すためのサイトだと述べている。振り返る事によって出来事を冷静に考える事ができ、違った角度や見方で見る事ができる。次に現在のコロナ禍で起きた出来事やニュースをまとめた年表も挙げられる。これらは当時の状況がわかるように新規感染者の推移を棒グラフとして、情報を数値と出来事で重ねあわせることでわかりやすく理解できる物となっている。一方でグラフィックを用いて視覚化する事で、平面の一画面内で実際に起きている事実とそれに対する世間の反応を入れ込むことができる。
また現在は2020年から続くCOVID-19の影響で著しく社会が変化しており、コロナ禍の東京オリンピックの開催をめぐって社会が大きく動こうとしている。こういったより激しい社会の流れがある現在だからこそグラフィックデザインを用いて記録する事で、当時の出来事だけでなく、世間の反応を付随して思い出すことのできるコンテンツになるのではないだろうか。

3.2グラフィック及び新聞調査

前期では、コロナウイルス関係のニュースやオリンピックについて取り上げたグラフィックを、4枚制作した。これらを通して画面上の構成の質や情報の伝わり方にも各々違う事がわかった。後期ではこれらに加え、新聞の文字組み等に関しての字体、文字組みを明示、昭和、平成、令和の新聞の構成や文字組みの違いを調査し時代と共にグラフィックデザイン的な要素が減り、画像や表が差し込まれるようになり、広告欄もより文字を詰めることでより多くの情報を入れることに重きを置くよう変化していることが分かった。

4.成果物

4.1.グラフィック:令和備忘録

備忘録として制作し、複数を比べて見る事で時代の流れを見ることのできるコンテンツにするため、2021年の4月~12月の9カ月を月ごとにA2サイズ紙媒体にグラフィックとして制作した。新聞のフォーマットを軸としてまとめている。調査でわかった時代ごとの新聞の違いを元に、明治・昭和時代のタイポグラフィ色の強い部分と現在の新聞の縦横自由に記事を配置する部分の2つを合わせ制作している。また新聞内の本文や題目は、文字の縦横比及び行間を縮めることによって、より現代の新聞に近い見た目になっている。

図1.令和備忘録

4.2.新聞の構成

通常の新聞の表部分を意識している為、日付や天気予報が右上にあり、そこから下に向かって記事になっている下は広告欄となっており、記事にはならない程の起きた出来事を小さくまとめ掲載している。記事部分はグラフィックと本文がセットになって固めてあり、一枚の中で平均3種類ほどある。

4.3.情報収集について

また内容に関してはコロナウイルス関係のニュースを軸に感染者の増減とその時に起きたコロナウイルス以外のニュースを入れることによって、新規感染者の変動に合わせた社会の変化も見る事のできる媒体にする狙いがある。なにようテレビや新聞、ネットニュースを参考にその月毎に入れる内容を選定している。前期の4,5,6月に関しては「東京2020 オリンピック」の前であり、コロナウイルスとオリンピックの情報が多く複雑であるため、上記のまとめ方に加え朝日新聞の縮尺版も用いている[3]

4.4.発表会において

2021年の1月21・22日にサテライトキャンパスでオフラインでの発表会を行い、制作物はA2で印刷し段ボールを吊るし掲示した。発表会ではデータの収集方法やアウトプットを複数試してみることでより深い研究になる事、また紙の種類を変える事より新聞感が加わるのではないか等の意見をもらうことができた。またオフラインの環境において実際に友人や家族で本研究を元に2021年を振り変える様子が複数見られた。当人が過去に体験したからこその盛り上がりや、振り返ることの重要性や楽しさを体験できたのではないだろうか。

図2.発表会時の様子

5.おわりに

本研究は前期に予想していた方向とは違い、後期にかけ自身や研究室内のメンバーとのコミュニケーションによっていろいろな方向を模索し今回の研究内容となった。グラフィックをよく見ればわかるが、文字の量やイラストのバランスから明らかに私自身のモチベーションがデザインに表れている。狙いとする2021年の情報の流れを見返すと共に、制作者自身のやる気の流れも入れ込むことができたといっても過言ではないだろう。こういった部分も文字やグラフでは表せない大事な部分なのではないかと考えている。現在蔓延している新型コロナウイルスがあとどれ位で収束するか見当もつかないが、コロナウイルスが落ち着き今のインフルエンザと同じような脅威に収まったとき、現在生きている人たちやまだ生まれていない人たちが本研究を見て2021年を振り返り多角的な視点で見てもらうことで、今は気づくことのできない部分や教訓を得る事を願っている。

参考文献

[1] 情報社会の新たなSOS。情報過多シンドロームとは
https://kenko.sawai.co.jp/healthcare/202001.html

[2] みんなの忘れたニュース
https://wasureta.news/

[3] 朝日新聞縮尺版 2021年 朝日新聞社