
Keywords: コミュニケーションデザイン, インビテーションデザイン, サービスデザイン
1.はじめに
少子化に伴い、日本の大学経営は厳しさを増している。私立大学は2014年時点で約4割が定員割れとなり、大学生数は2018年の65万人から、2031年には48万人に落ち込む見通しである。そのため、各大学は存続を賭けて受験者獲得を行う必要がある[1]。
そのような状況の中で、ネットワーク情報学部も、教育環境の改革と共に、学部と志願者のマッチングを図る試みを行っているが、教職員のリソースも少なく後手に回ってしまっている。
一方で、高校生の立場に立ってみると、各大学のアピールは多くの点で似通っており、発信されている情報量が多すぎること、そして何より殆どの高校生は自分のやりたいこと自体が明確でない。このことから、情報を取捨選択して行きたい大学を絞り込んでいくことは極めて難しくなっており、結果的に偏差値などの外部基準に従って選択することになってしまう、という問題がある。
この双方が抱える問題に近いのは在学生である。学部で学んでいる当事者であり、また高校生達が抱える不安や葛藤を数年前に通過しているからである。筆者らは学生有志による活動という方法で、大学と高校生をつなぐ機会を設けることで両者を近づけることができるのではないかと考えた。
2.研究の目的
本研究では、高校生と大学生との接点を作り、コミュニケーションの創出を図るためのデザイン実践を行う。数多くの大学・学部の中から、本学部に興味を持ち能動的に知ることができる体験のデザインを目的とする。さらに、実践を通して、情報過多時代のコミュニケーションデザインのあり方を検討する。
本研究は、尾身、加藤の2名による共同研究として行う。尾身は、主に体験前の観点から調査の報告を行うこととする。加藤は、主に体験中の観点からUXデザインの報告を行うこととする。
3.先行事例との関係
大学と高校生の類似関係として、企業の採用活動に着目した。たとえば、株式会社アイ・エム・ジェイは、社員と交流できる機会を多く設けて学生一人ひとりとの結びつきを強め、採用の効率を上げている。また、年度ごとにテーマ(たとえば2015年度の「恋愛」)を設けた採用フローで、学生自身に目的や自覚を促すためのデザインを行っているのである[2]。
情報過多社会では、周囲から流れてくる情報の増加により、発信したメッセージが個人に届きにくい。しかし、上記のような採用活動は、双方の負担は増えるが、活動を通してよく理解しあうことで良いマッチングにつながるのではないか、と筆者らは考えた。
以上から、本研究では大学生と高校生のインフォーマルなコミュニケーションをとるための仕組み(統合型のキット)をつくり、それによって、高校生にネットワーク情報学部に興味を持ってもらうための第一歩とすることを狙う。
4.調査と分析
4.1.オープンキャンパスでの取り組み
専修大学には、高校生やその親を対象としたイベントの企画・運営を行なう、学生スタッフが在籍している。彼らは、オープンキャンパスなどでキャンパスツアーを行なったり、相談ブースを設けて進路や受験の相談に乗ったりしている[3]。学生スタッフの活動と本研究は、「高校生と大学生が接点を持ち、コミュニケーションをとる」といった点で似通っている。そのため、筆者らは、ネットワーク情報学部に特化していること、ものづくり体験を通じてコミュニケーションをとること、を強みとし差別化を図ることとした。
また、オープンキャンパスに来場した高校生を観察してみると、模擬授業への参加が非常に多いことがわかった。このことから、実際に体験することへの関心が高いと考えた。
4.2.ネットワーク情報学部の取り組み
つぎに、ネットワーク情報学部が高校生に向けて行っている活動を調査した。 オープンキャンパス、体験・出張授業などの大学主催の企画以外に、プロジェクト発表会と絡めたAO入試説明会、指定校向けの見学会などが行われていることが分かった。そして昨年度は、Happy Monday Campus Visitというイベントが実施された。これは、連携高校へ招待状を送り、高校生が大学を訪問し、授業を体験するイベントである。
このようなイベントへ集客するために、一つの方法として招待状をオープンキャンパスで配布することが考えられる。なぜならば、オープンキャンパスへ来た高校生は、ネットワーク情報学部に関心があるとは言えなくても大学には関心を持って参加しているからである。
また、オープンキャンパスにてパンフレット配布場所を観察した結果、ネットワーク情報学部のパンフレットは他学部と比較すると小さく、学生の視点では見劣りして見えた。グラフィックデザインにこだわっていても、小さくしたことが効果を生んでいるとは言いがたい。そこで、上記の招待状と学部パンフレットを袋に入れて配布し、小さいことによる魅力が増すことを狙う。
4.3.大学生への調査
ネットワーク情報学部の4年生10名を対象に、インタビュー調査を行なった。質問内容は、1)大学や学部の情報を収集する方法、2)ネットワーク情報学部の印象、3)オープンキャンパスでの体験内容・印象、4)進路を決めた理由、5)ネットワーク情報学部の良い点、などであり、高校生のときを思い出しながら答えてもらった。
この調査から、主な情報源はインターネットであること、オープンキャンパスに参加しても、大学生と触れ合う機会がなく、よく分からないままでいた学生が多いことが分かった。その理由として、インターネット上に大学の情報が溢れていること、大学側が高校生に提示する情報が求める内容と一致しないなどが考えられる。そこで、大学生と高校生が気軽にコミュニケーションをとれる場所をつくり、大学受験や就職を控えた高校生の悩みの解決を目指すこととした。
また、ネットワーク情報学部の良い点として、座学だけでなく実技を通じて技術を身につけることができる、という意見が挙がった。このことから、高校生にものづくりの楽しさを感じてもらえるような体験をデザインしたいと考えた。
5.つなぐカフェの実施
5.1.つなぐカフェ概要
オープンキャンパスなどのイベントに合わせて学内で「つなぐカフェ」というポップアップカフェを開催し(表1)、高校生と大学生がコミュニケーションをとる場を設けた。はじめに、ものづくり体験を通じてその楽しさに触れてもらい、そこから対話を通して高校生が抱える悩みの解決に協力し、本学部に興味を持つきっかけをつくった。
また、つなぐカフェやネットワーク情報学部への招待状を制作し、つなぐカフェの開催日に高校生へ配布した。さらに、ネットワーク情報学部の提携高校宛に招待状を送付し、高校生に配布していただいた。
そして、本研究の目標は、つなぐカフェで体験したことを、高校生が自ら発信し広めてもらうことである。そうなることで、間接的にネットワーク情報学部を知る高校生を増やすことを望む。

5.2.つなぐカフェ実施内容
5.2.1. 第1回 7月23日(火)
今回のつなぐカフェには、事前に招待をしていた提携高校の高校生13名が参加した。また、筆者ら2名を含め、5名のネットワーク情報学部4年生で運営を行なった。SURIMACCAというシルクスクリーンキットを使用し、オリジナルトートバッグづくりを実施した(図1)。高校生たちが、恥ずかしながらも体験を楽しむ様子を観察することができた。また、高校生との対話から、大学選択をすることに関して、悩み事すら分からないといった高校生が多くいることを発見した。
ネットワーク情報学部の授業において、このようなシルクスクリーンキットを使用することはないが、ものづくりへの導入としてこのような体験を選んだ。
また、今回参加した13名を対象に、つなぐカフェで印象に残ったもの・体験についてアンケート調査を行なった結果、1位)大学生との対話、2位)ものづくり体験、3位)招待状 となった。

5.2.2. 第2回 8月6日(土)
今回は、5名のネットワーク情報学部4年生で運営を行なった。ものづくり体験の内容は、第1回と同様、シルクスクリーンキットを使用したオリジナルトートバッグづくりである。第1回との違いは、実施場所に看板を立てたことである。また、予め招待はせず、オープンキャンパスに来ている人なら誰でも立ち寄れる形式をとった。
この日は9名の高校生が参加した。看板を偶然見てつなぐカフェの様子を見ている人や、看板の写真を撮っている人が多数見受けられた。この実験から、看板があることでカフェの雰囲気が増し、立ち寄りやすくなる空間になることが分かった。
しかし、模擬授業が行なわれているときなど、時間帯によって集客に差が生じた。そのため、人の少ない時間帯には、開催場所の周辺で高校生に直接招待状を配布し、呼び込みを行なった。
5.2.3. 第3回 11月6日(日)
今回は、高校生とじっくり話すことを主な目的とし、ものづくり体験は行わずに対話のみを行なった。そして、看板とテーブルのみを設置し、呼び込みなどはせずに参加者が来るまで待機した。運営は、筆者ら2名である。
今回の参加者は、親子2組である。どちらも滞在時間が30分以上と非常に長く、話していくうちに高校生もリラックスし、積極的に質問してくれるようになっていると感じた。第1回、第2回と比較すると、内容の濃い対話をすることができた。
5.2.4. 第4回 12月17日(土)
今回は、3名で運営を行い、レジンを使ったものづくり体験を実施した。実施理由としては、簡単にキーホルダーや物のデコレーションが出来るが、道具を揃えることが大変なため、特別な体験ができると考えたからである。今回は、あらかじめ招待状を贈った連携高校の高校生11名が参加した。共同作業をしながら話をすることで、話しやすい雰囲気をつくることができると分かった。
参加した11名を対象に、さまざまなアンケート調査を行なった。参考になった話として最も多く挙げられたのは、大学生活についての話であり、8名の学生が参考になったと答えた。また、つなぐカフェに参加した前後でネットワーク情報学部の印象が変わったと答えた学生は全員だった。この結果から、高校生にとってイメージしにくい事柄を、対話を通じて探り解決していくことが重要であると改めて感じた。

6.成果物
カフェのメタファーを用いて、つなぐカフェのロゴや紅茶のラベル(図3)を制作し、オープンな空間づくりや学部の多様性を表現した。また、カフェメニュー風の会話発生装置(図4)を制作し、質問しにくい雰囲気の解消や漠然とした悩みの解決を目指した。
そして、成果物の今後の継続的な利用を目指し、誰もが使えるよう統合型のキットとして纏め、マニュアルを制作した。運営にあたって必要な道具である、看板、旗、シルクスクリーンキット、レジンキットなども引き継ぐこととする。


7.活動結果
つなぐカフェに来た高校生が、そこで体験したことをTwitterに投稿したツイートを見ることができた(図5)。これは、高校生がネットワーク情報学部を間接的に知ることにつながったと考える。
また、つなぐカフェの運営を行なった学生に対して、運営をするメリットについてインタビュー調査をしたところ、三つのメリット挙がった。一つ目はサービスデザインを学ぶことができる点である。ユーザーである高校生から、直接話しを聞くことができ、問題を解決することができるからだ。二つ目は、外部と接触することができる点である。つなぐカフェはオープンな空間であるため、高校生をはじめとする外部者を拒むことが無い。そのため、普段接点の無い人ともコミュニケーションをとることができるのだ。三つ目は、学部内で縦のつながりができる可能性があることである。今回運営を行なったのは4年生のみであるが、今後他学年も運営に携わることになれば、そこでも交流が生まれるはずだ。

8.考察
つなぐカフェにおいて提供した対話というサービスは、元々対象に興味を抱いていた者に対して、より深く理解してもらうことができた。また一方で、それほど興味を抱いていない者に対しては、興味を持つきっかけをつくることができた。長時間じっくりとコミュニケーションをとることで、高校生の不安や悩みは明確化することになり、解決へ導くきっかけをつくることができたと言える。
これらは、あらかじめ用意された情報を一方的に与えたり受け取ったりするのではなく、「双方向のやりとり」でなければ達成できないことである。また、目の前にいる人が直接的なメディアとなっていることが重要であると言える。そして、目の前に存在する人とやりとりのなかで聴いた話であるからこそ、疑いを持たれる要因は減り、そこで得た情報の信頼性は高まる。また情報の提供側にしても対話することによって相手の素性を見極め、提供すべき情報を判断することができる。その結果として双方の満足度は高まったと考えられる。
このような対面のコミュニケーションが信頼性に影響するのは、一種の原点回帰ではあるが、多くの作為的な情報が溢れ、個人まで届きにくくなっている現在の社会において、情報を見極めるための一つの方向性を示唆していると考えられる。
9.今後の展望
来年度以降も、つなぐカフェの活動が引き継がれることを望む。そして、本研究で制作した統合型のキットを参考に、高校生と大学生との接点を作り続け、よりよいものに改善していって欲しい。
10.おわりに
実際につなぐカフェを開催することで、ユーザーである高校生の声を直接聞くことができ、サービスデザインを学ぶことができた。また、つなぐカフェを四度開催したことで、検証、改善を繰り返し行なうことができた。