Keywords:Webデザイン,フリースペース,車椅子,ベビーカー
[NE19-1065F/CDプログラム]
1.はじめに
近年,日本の鉄道では,ベビーカや車椅子を始め,大きな荷物を伴う乗車に適したスペース(以下「フリースペース」とする)が設けられている.
さらに,本年4月には国土交通省の「バリアフリー整備ガイドライン」が改正され,特急車両にもフリースペースを一定数設ける必要があるとされた[1].今後,鉄道のフリースペースが多く新設され,その利用率も現在より高まると考えられる.
一方でフリースペースは,路線や車両によって設置位置が異なるため,事前の位置把握が難しい.また,設置位置の統一性がないために,フリースペース位置を発信する鉄道事業者が少ないことも現状である.以上の背景から,フリースペース利用者は,位置を把握できず,座席間の通路に乗車してしまい,周りの乗客に気を遣う様子を我々は多く目にする.そこで,事前にフリースペースの位置を事前に把握することが可能なツールを制作することに着目した.これによって,フリースペース利用者へ快適な乗車を導くことが可能になると考える.
2.研究の目的
本研究では,首都圏の各鉄道路線のフリースペースの設置情報を視覚的に表現した上で情報発信を行う。フリースペース利用者に対して快適な乗車を導き,現状の苦慮な鉄道移動を解消することを目的とする.
3.鉄道事業者の取り組み事例
ホームドア部および足下の乗車位置表記にて,フリースペース最寄り扉位置の場合はピクトグラムでの表記がある.また,東急電鉄や東京地下鉄では,公式アプリケーションや駅の発車案内にて,フリースペースの位置情報を発信している事例もある.
一方で,アプリケーション等での案内は普及しておらず,多くの鉄道事業者はフリースペース最寄りの乗車位置のみの案内であることが多い.そのため,乗車位置で列車待機列がある際は,表記が隠れてしまい,駅でのフリースペース位置の把握が困難になる現状もある.
4.フリースペース利用率の調査
4.1.調査概要
行動制限が緩和されたため,フリースペース利用者の往来も増加している.現状の課題を把握するため,2022年5月の土休日2日間に,フリースペース利用率の調査を実施した.調査は,旅客往来が多い小田急線町田駅および登戸駅にて実施した.
正午前後の1時間,ベビーカーや車椅子,大きな荷物を伴う利用者を調査対象に,フリースペース利用者の動向を各駅で調査した.調査対象者は,町田駅では28組,登戸駅では33組であった.
4.2.調査結果
図 1 フリースペース利用率の結果
調査の結果,フリースペースの利用率が低いことが判明した.(図1)調査対象の乗客のうち,フリースペースを利用した乗客は,町田駅を発車した列車では約4割,登戸駅発車した列車では約2割であった.他の対象者は,座席間の通路や乗降扉付近のスペースに乗車していた.
4.3.調査を受けた考察
調査した小田急線は,6車種の車両に加え,東京地下鉄や東日本旅客鉄道の直通車両も走行している[2].また,
車両数も調査駅では8両編成,10両編成の車両が走行している.そのため,フリースペースの位置が車両の形式と車両数により異なる.
加えて,現状では小田急線でのフリースペース設置位置案内が,最寄り乗降口の足元およびホームドアにしか表記されておらず,事前に把握する手段がない.
したがって,小田急線でのフリースペースの利用率は低いと考察する.
5.フリースペース利用者への調査
5.1.調査概要
フリースペース利用者に対し,鉄道での移動時に求めている情報について,インターネットで調査した.
調査は,利用シーンを選択した後に,「①必要最低限の設置共通位置の情報」「②例外を含む設置されている可能性のある全ての位置」「③子育て専用車や女性専用車等の車両設備情報」の中で,求めている全ての情報を選択する形式とした.
5.2.調査結果
利用シーンについては,ベビーカーユーザ14名,車椅子ユーザ4名,大きな荷物を伴うユーザ4名,立ち席利用者4名の計26名の回答を得られた.
調査の結果,「①必要最低限の設置共通位置の情報」および「②例外を含む設置されている可能性のある全ての位置」の2項目を,フリースペース利用者が多く求めていることが明らかとなった.(表1)
表 1 フリースペース利用者の回答
|
|
ベビーカー |
車椅子 |
大荷物 |
立ち席 |
|
① |
76.9% |
100% |
80% |
33.3% |
|
② |
61.5% |
33.3% |
60% |
66.7% |
|
③ |
38.5% |
0% |
0% |
66.7% |
6.Webサイトの制作
6.1.設置率の算出
前述した調査から,各路線で走行している全ての車両の設置パターンを調査した上で,各号車のフリースペース設置割合を算出し,発信することにした.(図2)
図 2 設置率の可視化
6.2.基本設置位置の案内
基本的な設置位置と設置率を分離した上で,案内ページトップに掲載する基本設置位置の案内を制作した.
ここでは,フリースペースに最も近い乗降扉を可視化する設計とした.また,号車の位置をより把握可能なように,進行方向も併記した.(図3)
図 3 基本の乗車位置の案内
6.3.案内ページへのアクセス
路線ごとに案内ページを用意している.この案内ページまでのアクセス方法は大きく2点ある.
第1に,トップページからの遷移である.トップページには対応路線の一覧が,鉄道事業者および路線名順に格納した路線一覧を表示している.任意の路線を選択および検索することで案内ページにアクセス可能である.
第2に,ブラウザからのアクセスである.デバイスに標準搭載されているブラウザ上で,「○○線 フリースペース」「○○線 ベビーカー」と検索することで,案内ページにアクセス可能である.全92路線の案内ページのうち,約7割以上の案内ページは検索上位に表示されている.
7.おわりに
これまで,フリースペースの位置情報を知る手段がなかった.鉄道事業者は,基本的に自社の設備案内しか行わない.路線検索サービスは経路の案内しか対応していない.そのような中で,手元のデバイスから容易にアクセスできるフリースペース位置案内サイトを制作することができた.現在は,首都圏の約90路線に対応しているが,今後は規模を拡大し,フリースペース利用者にとって快適な鉄道移動の構築を実現したいと考えている.
参考文献
[1] 国土交通省『公共交通機関における更なるバリアフリー化を推進します!公共交通機関の「バリアフリー整備ガイドライン」を改訂』
https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo09_hh_000333.html
[2] 小田急電鉄『鉄道部門:車両紹介』


