空き家問題に向き合う―庭から始める楽しい価値創出の試みー

空き家,伐採作業,フィールドワーク,ウィキッドプロブレム

[NE21-1113D/CDプログラム]

1.はじめに

 日本では空き家の数が急増しており、2023年10月時点で空き家の総数は約900万戸に達している[1]。特に、空き家の庭に生い茂る木や植物の伐採作業は大きな負担であり、この問題は、空き家所有者にとって手間とコストがかかるだけでなく、近隣住民とのトラブルの原因にもなっている。

 本研究の動機は、石川県にある祖父母が住んでいた空き家の庭の管理問題から来ている。祖父母の他界後、庭の木々が伸び放題になり、近隣住民からクレームが寄せられるようになった。これにより、家族が定期的に伐採作業を行わざるを得ない状況にある。しかし、伐採や草刈りなどの作業は非常に手間がかかり、伐採後の樹葉の処理も大きな課題となっている。

草木が生い茂る空き家

 そこで、本研究では空き家の庭を中心にした「楽しい価値創出」の可能性を探る。この問題は、さまざまな背景から利害関係が絡み合っており、単純に解決することはできない「厄介な問題(ウィキッドプロブレム)」として捉える必要がある。自身が当事者としてこの問題に向き合うことで、マイナスの側面をプラスに転じるための糸口を見出していく。

2.研究の目的

 本研究の目的は、社会問題となっている空き家をめぐる諸問題を読み解き、利害関係者にとって定期的な管理作業を楽しく価値のある活動に変える方法を見つけることである。

3.調査

3.1. 自治体の取り組み事例と限界

 石川県内の自治体では、白山市シルバー人材センターが提供する「空き家見守りサービス」や「伐採代行サービス」などが、空き家管理を支援している[2]
 しかし、人材が高齢者中心であるため、大規模な庭管理は困難であり、場合によっては断られることもある。また、専門業者への依頼は高額な費用がかかり、多くの所有者が自力で対応している現状がある。

3.2. ヒアリング調査と考察

 石川県にある空き家は、両親が月に一度訪れて庭の手入れを行っている。この家は江戸時代から続く家族の歴史を持ち、お盆や正月には親戚が集まる「お里」としての役割を果たしているため、単純に売却や放棄する選択肢は現実的ではない。空き家問題には物理的な負担だけでなく、家族や地域の情緒的なつながりが深く関係していることがわかった。

我が家のアクタントマップ

 阿久根市地域おこし協力隊の方からは、空き家の価値に対する持ち主と世間の認識のずれや、無関心が土地の荒廃を加速させている現状が共有された。

 また、空き家問題に直面した経験を持つ先生との対話では、祖父母の暮らしの痕跡を大切にし、文化的価値を次世代に伝える視点から、空き家が単なる負担ではなく地域文化の遺産となり得る可能性が示唆された。

 空き家管理の負担を軽減し、家族や地域の人々が楽しみや充実感を感じられる解決策が必要である。これにより、土地を大切にし続ける心の余裕が生まれ、新たな世代が愛着を持つ可能性が広がると考える。

イエを分解

4.ワークショップの実施

 阿久根市のワーケーションプログラムに参加し、その一環として地域住民と共に「空き家を語る会」というワークショップを実施した。参加者は3つのグループに分かれ、現状や課題、解決策について議論し、付箋を用いて意見を共有した。

 主な課題として、相続の不明確さ、資金不足、管理負担、情報不足、さらに空き家問題への意識の低さが明らかになった。

 また、解決策に関してはDIY教育や相談窓口の設置、子どもへの地域教育など、地域住民の強い横のつながりを活かしたアプローチが提案された。

5.分析

 空き家の管理や活用に関する課題について、ワガヤとアクネという異なる地域背景を持つ事例を「イエ」を中心とした関わりを比較し分析を行った。

図1 イエとの関わり

 ワガヤでは、家に関わる親族が多く残っているのに対し、アクネでは持ち主を含め家に関わる身内がほとんどいないため、外部の人々が関与する構造となっている。
 この違いにより、空き家問題へのアプローチには以下のような特徴的な違いが見られた。

 ワガヤのような「親族内で完結するアプローチ」は、情緒的なつながりを大切にする一方で、外部のリソースや知見を活用しにくいという課題がある。一方、アクネのような「外部主体が積極的に関与するアプローチ」は課題解決の幅が広がる反面、多様な主体間の調整が必要となる場合がある。

 この比較から、空き家の管理・活用には地域の背景や人々のつながりを踏まえた柔軟でバランスの取れた解決策を検討する重要性が明らかになった。

6.検証

6.1. 「愛着を持つ」ための実践的アプローチ

 夏季休暇を利用し、石川県の空き家で庭の草むしりをイベント化した「草むしりWEEK」を実施した。家族全員が早朝3 時間を5 日間にわたって作業に取り組み、「こんな草が出てきた!」や「こんなに大きなものを見つけた!」と笑い合いながら発見を共有するなど、草むしりが家族の交流の場となった。その結果、通常よりも高いモチベーションで作業が進み、庭の手入れが予想以上に進捗した。

 さらに、「空き家管理への愛着」を形成する目的で、庭の一部を耕し、バジルを植える活動を行った。この取り組みによって、空き家に「自分の宝物」を持つ感覚を生み出すことを目指した。バジルは単なる植物ではなく空き家が「自分の大切な場所」という認識を醸成する象徴的な存在となった。

愛着形成のバジル

6.2.効果と考察

 「草むしりWEEK」に対する家族の反応は予想以上に好意的であった。特に、草むしりに対して日頃から不満を漏らしていた親が「来年も一緒に頑張ろう」と意欲を示し、草むしりに対する家族の認識がポジティブなものへと変化した。

 さらに、バジルの植栽を行った結果、親が定期的に家の様子を見る際にバジルの成長を確認し、私に報告することが日課となった。これにより、「また草が生えるのは嫌だな」という否定的な感情が、「来年もバジルが育つのが楽しみ」という期待感に変化した。このような心境の変化は、空き家を単なる「負担」から「楽しみと愛着の対象」へと昇華させるきっかけとなった。

空き家に対する親のコメントの変化

7.おわりに

 1年間、庭を起点に空き家問題に取り組んだ結果、身近な家族の意識改革に成功した。意識が変わることで、これまで大きな負担と感じていた管理作業が、次第に軽減されていく様子を実感した。

 一方で、同じ空き家でも背景や状況に応じて必要なアプローチが異なり、また、問題に対する意識の低さや資金面の課題が共通する大きな壁であることが明らかに
なった。今回は「意識の変化」に焦点を当てたが、空き家そのものを改善するには多くのハードルがあり、簡単に解決できない問題であると実感した。

 今後は、庭を起点とした取り組みをさらに深化させつつ、長期的な視点で空き家全体へのアプローチを進めていきたい。持続可能で楽しい空き家活用の可能性を模索し続ける。

参考文献

[1] 総務省『令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果』https://www.stat.go.jp/data/jyutaku/2023/pdf/g_kekka.pdf

[2] 白山市シルバー人材センター『お引き受けする仕事』
https://www.sjc.ne.jp/hakusansc/sigoto/ohikiuke/ohikiuke.html