鹿児島県阿久根市における観光拠点のデザインリサーチを題材として
Development of a design game based on the idea method by generating random verbs
1. はじめに
デザインを学ぶ学生たちが地域に滞在し,プロジェクトに参画する取り組みが増えつつある。地域社会にとって学生は,よそ者・若者であり,しばしば街に異なる文化を持ち込む存在となる。また住民とは違う視点からその地域に根付く「良さ」を⾔語化して伝え,⼒づけることができる点で重要なアクターともなる。
とは⾔え,学生たちが地域で何かのフィールドワークに取り組む場合,限られた時間ではその地域に長年住んでいる人々が大事にしていることや積み重ねられた歴史性などは,ストイックに観察を重ねてもなかなか見えてこない。また地域の人と話す機会を作るにしても,クルマ中心に移動する地方では偶然の出会いは少なく、立ち話を超えるような対話に至る機会は限られる。
こうした困難を越えて探索を深めていくために,外部者としての観光者(=大学生)と,地域在住者(=市民)が出会う接点をつくりだすワークショップを活用することは一つの選択肢となる。また,その場においては参加者が自発的かつ楽しく協働するための仕掛けが求められる。そこで我々はデザインゲームに着目した。デザインゲームとは,触れるゲーム素材やルールによってサポートされる、遊び心や構造といった遊びの要素を意図的に強調したコ・デザインのためのツールである[1]。よくできたデザインゲームは,参加者の探索⼒や想像⼒を効果的に誘発することができる。
2. 研究の目的
本研究では,観光者と地域在住者の双方の視点を活かし,観光体験のアイデアを幅広く引き出すための装置として,ガチャガチャを応用して無作為な動詞の組み合わせを発生させるデザインゲームを開発した。このゲームの実践事例をもとに,その有効性について考察を行い,地域において協働のデザインに取り組む際に有用となる知見を提示することを目的とする。
3. 実践するフィールド
⿅児島県阿久根市は,⿅児島県の北東部・東シナ海沿いに位置する⼩さな市である。基幹産業の漁業が衰退し,少⼦⾼齢化と過疎化が進行しているが,街に危機感と愛着をもつ人々が活発にまちづくりに取り組み,独自の文化を形成している。
阿久根市では,旧港地域にある⻘果市場の跡地を,観光拠点となりかつ地域の人々も利用できる場として活用する計画を進めている。我々は2023 年度にこの事業におけるデザインリサーチを担当した。市の歴史や現状,市民の思いを理解した上で埋もれている地域資源を探索すること,および見出した価値を活かした観光施設の原案を提示するための調査活動である。このリサーチの一環として行ったワークショップと,そのために開発したデザインゲームを取り上げる。
4. ワークショップの概要
4-1:実施概要
◉日時:2023 年 10月29日(日)10:00-12:30
◉場所:風テラスあくね(阿久根市の市民交流センター)
◉方法:5 or 6 人 / 観光者と在住者の混成グループ
◉参加人数:観光者(上平研究室)12 名 / 在住者( 阿久根市民):16 名=計 28 名 , 5チーム
4-2:ねらいと題材
参加者は,自由応募ではなく市の未来に対する思いを持っている人に参加を事前に依頼し,世代を偏らせないように集めた。ワークショップの題材は,上記の混成グループで「2033 年,ある日の阿久根新聞」を試作するというものである。ガイドブックには載ってない,阿久根の過ごし方について観光者は地域住民から直接教わり,それをともに面白がることでまだ無い新しい体験の組み合わせを即興的に生み出す。そして,その体験は〈現在〉ではなく,10 年後の〈2033 年〉とした。九州西廻り⾼速道路が開通し,市へのアクセスが大きく変わると予想される時期である。SF プロトタイピング [2] の要素を取り入れ,地域資源という縛りをもちつつ架空の新聞記事でもあるという葛藤を設定することで, 双方
の立場でポジティブな観光体験の可能性を探ることにした。
4-3:プログラム
1)アイスブレイク / テーマ設定
計画した流れを図1に示す。準備した〈仕掛け〉に下線を引いた。

観光者が自分の地元のお菓⼦を共有し,各自で簡単に自己紹介する。予備調査を経て,阿久根市に来た観光者が経験するアクティビティの時間帯は〈朝マヅメ〉から〈夕焼けSUP〉まで幅広く分散していることがわかった。これをもとに,アクティビティ単体ではなく,複数の時間で連続した過ごし方を見出すために, 5つのグループを時間帯で区切り,それぞれ早朝 / 午前 /お昼 / 夕方 / 夜の別々の大テーマを持たせた。題字を事前にレイアウト
した新聞の台紙がテーブルに広げられている。
2)ガチャガチャを回して,「動詞」を引く
各グループは,さらに観光体験に関係の深い「動詞」3 つを設定し,⼩テーマを定める。ここでガチャガチャを回して出てくるカプセルに「動詞」が封入されており,50 の動詞の中から無作為な組み合わせを発生させるという強制発想法を取り入れた。この仕掛けは 2 つの狙いを持つ。ひとつめは,偶発的に与えられるルールに則って遊ぶことで,〈ともに考える楽しさ〉を生み出すためである。ふたつめは,固定観念に縛られがちな観光体験をガチャガチャの〈無作為性によって撹拌〉し,思いがけない切り口から発想を引き出すためである。
3)与えられた制約から連想を広げる
大テーマ(時間帯)と⼩テーマ(3つの動詞)から連想される事柄を付箋に書き出し,グループ内で対話を深めていく。
4)話題に関連する写真探検
書き出した話題を元に,学生がフィールドワーク中に撮影し,印刷した市内の 500 枚の写真の中から, 関連する写真をピックアップする。写真を通じて学生たちの体験が語られ,写真を起点にテーマに関するイメージを膨らませる。
5)テーマに合わせた新聞づくり
1~4で設定したテーマ・写真・対話を元に,記事を2つに絞り,阿久根での新しい体験が埋め込まれた新聞を制作する。
6)発表と共有,新聞を元にした対話
完成した新聞を張り出し,全体で共有する。プレゼンを通して,それぞれの未来の阿久根に対する思いについて対話する。
5. 結果と考察
ワークショップでは活発な意見交換が行われ,観光者と市民の有意義な交流の場になった。成果物の記事以外にも,対話中の多くの付箋がデータとして得られた。そしてこの取り組みの狙いであった〈ともに考える楽しさ〉については,会場の雰囲気からも有効に機能していたと⾔える。ある参加者は「本気でワクワクしたし,グループで話すことでここで生まれたアイデアが実現できるような気がしてきた」と語った。ふたつめの〈無作為性による撹拌〉についても,幅広い切り口を生み出すことに寄与していた。例えば,阿久根市であれば「夕日がキレイ」や「海産物が美味しい」という定番があるが,「書く/ 染める/ 料理する」という3 つの動詞を引き当てたチームは,無農薬ぶどう農園を経営する参加者と観光者のやりとりを通して,農園発の新製品としてクラフト・ラムレーズンの「商品ラベルを手書きする」という即興的なアイデアを生んでいた。これはまさしく制約による効果であり,強制的に与えられた動詞の切り口がイメージの固着から離れさせ,身近にあるものの再発見を促進したと⾔える。これらの点から,開発したデザインゲームは双方の視点を活かしたアイデアを幅広く引き出すための装置として十分に機能したと判断できる。しかしながら,切り口の幅は広げられたものの,用意した動詞の組み合わせ数は実際には19600 通りもある。複数回実施することでより探索の幅が広がるため,実施回数を重ねることが大きな課題となる。このゲームの実践から得られた知見を,二つにまとめる。
- 装置以外の「共通項」の準備:装置や動詞群だけではこのゲームは成立しない。学生たちの事前のフィールドワーク経験・記録写真が,市内に存在するさまざまな資源を共通項に変え,異なる背景の参加者を繋ぎ,対話を深める重要な要素となった。
- 動詞による「連続性」への気付き:デザインゲームを企画・準備し,経験したメンバーは,観光体験を動詞に変換することを意識する中で,これまで分断されていた行為(例:〈釣る〉と〈さばく〉 など)を抽象化し,連続的に捉えることに気づいた。その動線づくりの視点は,最終的な提案へと活かされることとなった。
6. おわりに
阿久根市で行った,観光者と地域在住者が双方の視点を活かしながら観光体験をつくりだすためのデザインゲームについて報告した。大学生が地域を訪問することにはさまざまな効果があるが,単に観察や取材をするだけでなく,地域住民と協働する可能性を広げるための一つの参考例になればと思う。
参考文献
- Vaajakallio, K., & Mattelmäki, T. (2014). Design games in codesign: as a tool, a mindset and a structure. CoDesign: International, Journal of CoCreation in Design and the Arts, 10(1), 63-77.
- 宮本道人 , 難波優輝 , 大澤博隆(2021)『 SFプロトタイピング―SFからイノベーションを生み出す新戦略』早川書房
謝辞
本研究は、2023 年度科研費(No.18K11967) の助成を受けたものである。