
Keywords: ヴィジュアルデザイン, ストーリーテリング, ブランディング
1.はじめに
現代では、満天の星空をどの地域でも楽しむことができなくなってしまった。特に、都会では星がはっきり見えにくい。[1] このような背景により、街明かりの少ない地方に行かなければなかなか綺麗な星空を見ることができないということが現状である。
そこで、都会の人に地方に出向いて美しい星空を楽しんでもらう体験を提供したいと考えた。その際、興味関心がないとツアーやイベントを組んでも星を見にいくことを目的として地方に出向いてもらうことは難しいと考え、実際の空を見る代わりに視覚的に星空の詩情性を堪能してもらうことで星空に対する興味関心を都会の人にもたらすことのできるようなヴィジュアル表現を探求し、それを活かしたものづくりを行っていく。ここでいう詩情性とは、人間から見た星空が持っている詩にみられるような趣のことである。
2.研究の目的
本研究では、都会の人々に星空の詩情性を喚起させるコンテンツ制作の手段として、ミニマムな造形要素を用いたヴィジュアル表現の可能性を探求する。作品に触れることで、美しい星空を実際に見ることができない人々に星に関する興味関心を発生させることが目的である。
3.先行事例の調査と分析
星空を擬似的に楽しむことができるコンテンツは、これまでにも多く存在する。例えば、デジタルプラネタリウムのMegastarは星空の様子だけではなく、関連した映像をフュージョン投影させるなど統合的な表現も行われている。また、福音館の科学シリーズの「立体でみる[星の本]」や福永紙工の「星空の封筒」など、プロダクトの中に星空に対する興味をそそるようなストーリー性を埋め込んでいるものもある。しかしながら、プラネタリウムは住んでいる近くにあるとは限らないので実際に施設に出向く敷居が高く、また先行のストーリー性のあるプロダクトは、大量生産されるため特定の文脈の中にいる人に向けて作られているわけではない。それゆえ、自分の存在している時系列に沿った星空の変化を捉えながら星の趣を堪能する、といった体験は含まれていない。
4.研究成果物
◎ 星空にまつわるヴィジュアル表現を活かしたものづくりのブランディング企画:「宙の便」プロジェクト

都会の人に星の詩情性を伝えるために、ヴィジュアル表現にこだわった一連のものづくりを行うプロジェクトを実施し、「SORANOBIN – 宙の便 -」と名付けてブランド化を図った。星の詩情性を伝える制作した作品は計6点で、作品ごとに異なった意味合いを込めている。
1) 宙暦
都会の人が実際には見ることができない星空の変化をヴィジュアルに落とし込んだカレンダー「宙暦」を制作した。宇宙の動きという大きな「時」の流れの中で人間が生活しているのだということを使い手に実感させることを意図している。

2) 宙の屑箱
箱の中に畜光ビースとワイヤーで作られた数多くの星座が入っている。手に取って星座の形を実感することができる。暗闇の中では光るようになっている。

3) 月望みの筒
三日月」や「上弦の月」など、14の昔の月の呼び方とそれぞれに対応する実際の月の満ち欠けを、筒を覗くことによって体感することができる。

4) ソラノキ
太陽系や十二星座、太陽と月を記号化した、星座記号について知ることができる吊り下げ式のオーナメント。

5) ヒカリの便り
星座を構成するそれぞれの星の上に印刷された数字の数だけアクリルキューブを積むことによって、その星の光が何光年先から届いているのか、他の星と比較しながら実感することができる。

6) 十二辰刻星見盤
実際の時計の短針が、文字盤に描かれている星座を指し示していくことで、昼夜問わず今どのような星座が天にあるのかを確認することができる。時計は12時間しか目盛がないが、星座が描かれている文字盤を二重にすることでその問題を解決している。

5.成果物の検証
5.1.検証の実施内容

専修大学生田キャンパス10号館1階のフロアの一角にて、個展形式での作品展示(http://youtamochizuki.me/soranobin/)を行い、実際にユーザーとなる都会の人が作品を堪能することができる機会を設けた。その際、来場者に対して詩情性を喚起させることができているか、作品の意図を感じてもらうことができるかなどのポイント踏まえて調査した。アンケートでは深い調査結果が得られないと判断したため、デプスインタビューを5人に対しておこない、制作した作品の検証を実施した。
5.2.検証結果と考察

個展にてインタビューとして5人に話を聞き、研究成果物である「宙の便」の作品や展示について評価をいただいた。また、それ以外の来場者に対しても観察やヒアリングをおこなった。
<観点1:星空に対する詩情性の喚起>
インタビューをおこなった全ての人が、星に対する趣や奥深さ(詩情性)を感じることができたと述べていた。その理由として、作品それぞれ、また展示会全体として星をテーマとした詩的な世界観がよく構築できていると感じ、自然と趣や奥深さを感じることができる空間設営となっていたことが伺える。
<観点2:星空に対する興味関心>
普段は星について気にかけることはないが、この展示会をきっかけとして星に対するイメージを見つめ直すことができたと述べる人が多かった。一般の来場者、特に2人以上で来場していた人たちのほとんどは、対話をしながら作品を見たり触れたりする様子が見受けられ、実際に綺麗な星が見えるところに行ってみたいという声もあった。
<観点3:それぞれの作品の意図>
4章にあげているような作品の意図については、実際に自分の説明を受けた人に関しては理解でき、今まで知らなかった星に対する知見をもたらすことができ興味を持ってもらえた。しかし、自分がいない、キャプションのみの無人運営にしていた場合、キャプションを読めば理解できた人と、意図がよく伝わらない人に分かれてしまった。また、宇宙からの光の到達にまつわる作品「ヒカリの便り」では、もうすでに存在しない星もあるのではないかといったこちらが意図していたもの以上の考察をしている来場者も見受けられた。
6.今後の展望
来場者の中には、「宙暦」や「十二辰刻星見盤」などは実際に販売できるのではないか、また「ソラノキ」はインテリアとして手にとって使えるではないかというご意見をいただき、今後は実際にユーザーに手にとって使ってもらえるように展開していくことを検討していきたい。