路上観察,日常,街歩き,記録

[NE21-1170H/CDプログラム]
1.はじめに
インターネットやスマートフォンの普及によって、通学時にもデジタルコンテンツを消費し移動時間を楽しく過ごせるようになった。たしかに、私たちは技術の進歩による恩恵を日々享受しており、スマートフォンやイヤホンは日常生活において欠かせない存在となっている一方で、自分自身のまなざしと身体を持って現実世界と対峙する機会が激減していることも見逃せない事実であるこれらは身近にあるものをきっかけとして、自らの気づきを得たり思考を深めたりする機会の喪失を引き起こす重要な問題と捉えることができる。
こうした観点において、日常の中で街中観察を行うことは意義があると考えられる。考現学的な視点をもとに自分自身の五感を用いて小さな発見を重ねることは、街の見え方や物事の捉え方に変化を生み出すからである。さらに、小さな発見を記録して採集していく行為は自身の好奇心を育てたり、平凡な日々に新鮮さや彩りを与えられたように感じたりすることができると考える。
2.研究の目的
本研究では、筆者自身が継続的に街中観察を実践し、日常における小さな発見の数々を記録する。そのプロセスを一人称的に自分自身の内部から調査することによって、自分自身のまなざしと身体を持って現実世界と対峙する機会の重要性を再検討し、現代の都市生活者における探索的態度を涵養するための知見を提示することを目的とする。
3.調査と考察
3.1.先行事例との関連
身のまわりにあるものに注目する取り組みとして、考現学の影響を受けている路上観察学会がある。路上観察学会は、マンホールの蓋や解体した建物のカケラなどの機能を失った、もしくはもともと無用で純粋なモノに価値を見出すコミュニティである[1]。考現学的なフィールドワークとは、人びとの暮らしやまち並みに対して自分なりの理解を創造することである[2]が、路上観察学会の取り組みは主観的事実よりも客観的事実を重視する傾向がある。
それに対して、ヨコク研究所のGRASP プロジェクト「“採集的リサーチ手法”のプロトタイピング」では、素材や情報を直感的にとらえる方法を模索し、言語化や共有化が難しい物事もストックした状態で、実感を伴う経験や言葉の断片をつなぎ合わせて考えることを重視した取り組みを行なっている[3]。これらの事例を参考に、路上観察学会の取り組みに採集的リサーチ手法を取り入れた街中観察を実施する。
3.2.街中観察の実践
日常に街中観察の視点を取り入れることを実践した。街を歩いていく中で、直感的に良いと感じたものや別のものに見えたもの、ふと仮説や推測が浮かんだものなどを、撮影したり言語化したりして記録することを実施した。
前期に実践した街中観察の成果として、家の近所で発見した古い看板をあげる。看板の色褪せた文字を解読したところ、とある病院の駐輪場であることを示す看板であった。しかし、周囲に病院は見当たらない。そこで、地域について調べると、過去に大きな総合病院が存在していたことが判明し、心霊スポットとしても有名であることがわかった。この経験から、これまでは何も思わずに近くを歩いていたにもかかわらず、深夜に病院の跡地付近を通るときに緊張するようになった。
以上のことから、街中観察の視点を日常生活に取り入れて生活を行うことは、街の新たな側面を知るきっかけとなり、街の見え方に変化を与えることに効果的であると考えられる。
4.成果物
4.1.観察記録の関連性を可視化する
これまでの観察記録をもとに KJ 法を用いて記録を整理し、路上や街中で観察できる面白いものについての解像度を高める分析を行った。分析の過程において、それぞれの記録同士につながりを見出し、探索的な視点が生まれる場面や瞬間を親和図として可視化させた(図 1)。これまでの記録を振り返ると、観察の対象や場所などはバラバラで統一性は少ないように感じられた。しかし、このような断片的な情報から理解を深めていくためにはKJ 法が最適であると考えた。
制作した親和図から、路上や街中で観察できる面白いものとは、純粋にモノが存在することだけでなく、それまで見えなかったつながりの存在に気づくことだと考えた。小さな発見は、認識の瞬間とその時の意識や思考などの条件が揃うことで連鎖的に生まれる。また、観察する行為は、現実世界という外側と、自分自身のまなざしや身体という内側との橋渡しの役割を担っている。このように、つながりの連続性と循環に気づき、それらを自分のこととして捉えることが、豊かな日々への第一歩となるのだと考える。
4.2.親和図の制作プロセス
まず、今までの街中観察で見つけた発見を一覧できるよう、記録として残すために撮影した写真と説明文を観察記録として集めて並べた。次に、観察記録から得られた情報を事実と解釈に分けて異なる色のカードに書き出す。全てのカードを眺めながら、意味や文脈が近いもの同士を集めてグループ編成を行う。グループの内容を示すラベルを作成した。さらに、グループの配置場所によって関連性の強度を表現して、関連性を線や矢印で示しながら、つながりを文章で補足した。
親和図を制作する際の工夫として、事実と解釈を書き出したカードに写真を添付している。写真を加えることによって、どの場面の事実と解釈であるのかを明確にし親和図から観察記録の情報を理解できるようにした。また、グループの内容を示すラベルは、グループ化を行った段階によって色を統一させている。これにより、カードやグループ間の関連性を視覚的にわかるようにした。このようにすることで、親和図における要素同士のつながりを捉えられるようにしている。

5.おわりに
本研究では、現代の都市生活における観察活動において、素直な興味関心に基づく自己との対話を通じて得られた考察を示すことができた。また、個人での観察活動を通じて、路上や街中の興味深い発見を深く掘り下げることができた。しかし、観察記録の共有による他者視点からの気づきについては十分な考察ができなかった。今後は、観察活動で得た発見を楽しく伝えるコンテンツ制作など、観察蒐集活動を他者と共有する手法を模索し、街中観察の日常的な実践の可能性を探りたい。
参考文献
[1]堀野彩(2024). 路上観察学会 artscape
https://artscape.jp/artword/7010/
[2]加藤文俊(2016). 「考現学」の誘惑 まちに還すコミュニケーション
https://camp.yaboten.net/entry/2021/05/05
[3]WORK IN PROGRESS そ の 2 | 「 ヨ コ ク っ て なに?」から考える ヨコク研究所 (2023)
https://yokoku.kokuyo.co.jp/news/work-inprogress02/


