文字のフォルムを利用したアブストラクトフォト制作とその撮影装置の試作


Keywords: SNS, 文字, アブストラクトフォト

1.はじめに

スマートフォン及びSNSの普及に伴って、写真を撮ることの敷居は格段に低くなった。文章で表現するよりも手軽に豊かな表現ができるようになり、今では体験や感情の共有のために写真が利用されるようになっている[1]。以上のことから2つのポイントが指摘できる。ひとつは、撮影することが当たり前になったことで、自分の美意識を写真に反映させる感覚が高まってきていることである。試行錯誤しながら美しい写真を撮ることは、一般の人々にとっても十分に楽しい体験となる。もうひとつは、人々にとって写真は記録よりも共有のためであり、SNS映えは重要な動機であるということである。SNS映えとは、被写体としてフォトジェニックなモノやコトとリア充ぶりをアピールできるモノやコトという要素のことである。これらからも、自分の美意識を写真に反映させることができる撮影装置があれば、人々の創造性を刺激するかもしれない。 そこで、筆者はアブストラクトフォトという古典的な写真技法に着目した。アブストラクトとは抽象という意味で、撮影対象に関する具体的な意味を排除したもので、線や面、色などを造型的に再構成するものである。撮影者が積極的に関与し、被写体を作為的に操作することに特徴がある。抽象的な表現をすることで、写すモノ自体に意味はないが自分の美意識で空間を操作した表現を行うことができると考えた。

2.研究の目的

本研究では、文字のフォルムだけに造型要素を限定したアブストラクトフォト制作を探求し、その制作手法を他者と共有するための装置を試作する。撮影する装置をオープンにすることで制作者個人の創造性を越えた共創的表現の可能性を広げることを目的とする。

3.先行事例との関連

これまでの研究を通して先行事例と考えたのは、「絵ポンテ かたちスタンプ」[2]である。大小様々で柔らかい丸、四角、三角のスタンプを利用した子供のおもちゃである。用途は落書きのように想像したことを紙に表現していくというものだが、落書きと違うのは丸、四角、三角と表現に制約があるということである。このスタンプの目的は、頭の中のイメージを表現しやすいため想像力や創造力を豊かにする手助けをするということである。
しかし、この先行事例ではターゲットが子供寄りなので、美しさに欠けていた。本研究では美しさを追求しつつ、人々の創造性を手助けするものを目的としている。

4.制作実験

筆者が装置の利用者側に立ち、写真撮影をするということを行った。大きく4段階に分けて撮影をした。
1段階目:大きさが同じ文字を配置し、撮影を行った。
2段階目:文字の大きさを変えて撮影を行った。1段階目よりも空間に強さを感じた。
3段階目:照明の色を変えて撮影を行った。
4段階目:糸を使い、文字を浮かして撮影を行った。
以上の結果から、画面のインパクトに欠けたり、カメラの撮影位置が難しかったりとそれぞれに難しい部分が見つかったが、装置を取捨選択してもらうことによって利用してもらうということも考えられた。また、これまでの段階のように、装置が多すぎても制約に幅がありすぎるように考えた。

5.成果物の説明

成果物としては、大きく2つに分けることができる。ひとつは筆者による写真集である。筆者自身の高い作品性を示すことによって、他者がアブストラクトフォトに対する興味を持つきっかけとなる。もうひとつは背景や文字、LEDライトなどの装置を用意し、アブストラクトフォトの撮影ができる装置である。利用者は自分で画面構図を工夫して撮影することができる。
筆者の作品集としては、これまで多くの撮影をしてきた中から、良いと思ったものを筆者が判断してまとめた。はじめは、意味のある文字列を抽象的に表すことが難しく感じた。しかし、この行為をできることが作為的に撮影することのメリットとも感じた。この作品集からは、意味がわからなくとも「何かいい」と、見た人が心地よくなってもらえればと考えている。


6.撮影装置の体験結果

7人の協力を得て、試作した装置を用いた撮影を行った。文字を並べ、撮影に到るまでの流れは筆者の考えていたようにすることができた。しかし、空間の作り方となると、1人1人の判断や工夫によって何通りもの表現となる。今回、協力を得た人の中には、正解がないから面白いや難しいとの感想を得ることができた。またLEDライトを利用することに関しては、画面構図の幅が大きく広がってしまい、難しく感じてしまう可能性があることも知ることができた。
そして、もうひとつ装置の運用を通して気付いたことがある。それは、「誰にとっての」空間の美しさなのかという点である。自分で撮影して自分が納得できれば良いという人がいる一方で、写真を他人に評価されたいという人もいる。美の評価に関する古典的な問いであるが、この研究では、専門的視点による画面構図の完成度ではなく、多くの人にアブストラクトフォトを体験することを主目的としているので、1人1人の価値基準が違うことを是とし、撮影している人が納得できれば良いという立場を取る。(図3の体験者は、2番目のIを立てることによって自分は先頭に立つ人間ではないということを表現した。)

7.今後の課題

文字のオブジェクトの制作が遅れてしまったため、撮影装置の運用実験が遅れたことは反省点である。今後は、計画がずれてしまった時に、計画を練り直し、ゴールまでのイメージをし易くすることで計画のずれを少なくできるようにする。そして、まず相手に見せる筆者の写真に「豊かさ」や「美しさ」がなければ、撮影したいという魅力は生まれず、その後にも繋がらないと感じた。このように、研究の中で柱となる部分がぶれてはいけないということである。筆者の研究では、まず自分が豊かな空間を作るという部分が柱であり、その周りに装置の体験などがある。すなわち、できあがる写真に有無を言わせないクオリティが求められるわけであり、この柱がぶれてしまうと、研究に対する興味自体がなくなってしまうことに繋がる。他者の利用体験を設計する以前に、自分が撮影するときの気持ち、という足元をしっかり見つめることも大切にしていかなければいけないと感じた。

8.おわりに

本研究では、筆者によるアブストラクトフォトの作品は納得のいくものができた。そして、これまで経験のなかった人にもアブストラクトフォトに触れる機会を作ることができた。
しかし、文字だけでなく記号などを使ってみたいといった、体験していただいた方々のリクエストなどに今回の研究では答えることができなかったので、機会があれば研究の枠を超えて、撮影の幅を広げていくことができればと考えている。そして、多くの方々に空間を作り、撮影することの楽しさを知っていただけたらと考えている。