
Keywords:高校教育, 教科情報, 情報デザイン, デザイン教育
1.はじめに
2018年3月に告示された新学習指導要領では、高校での情報科目の授業構成の大幅な変更が行われており、1年生配当の情報Iに「コミュニケーションと情報デザイン」の項目が追加された。新指導要領によると、情報と情報技術を活用していくことで「問題を発見・解決する活動を通して,新たな価値の創造を目指し,情報と情報技術を適切かつ効果的に活用する資質・能力を高めることができる」という高い目標が設定されている。
しかし、これに対応した情報デザインの教材や授業構成はまだ検討されていない。そもそも情報デザインという概念の定義や学習範囲も明確でないため、2021年以降、デザインの初学者である教員によってスムーズに授業を始めることは困難を窮めることが予想される。
そこで、初学者が情報デザインを学ぶ意義を知ることができる入門的な学習教材を作る必要がある。
2.研究の目的
本研究では、情報デザインの学びの基本として、それぞれの立場の文脈によって強調された情報の作為性に気付くこと、および、メニュー作りを通してデザインの4原則(近接、整列、強弱、反復)を学ぶこと、この2点を取り上げ、それぞれの学習教材の開発を行う。これらをワークショップ形式で学ぶことで、学習者が情報デザインを自分事として捉え、広告やSNSなど身近なビジュアルコミュニケーションの問題に対してクリティカルに考えることができるようになることを目的とする。
3.先行事例との関連
・ネットの「あやしい」を見きわめよう
カードに書かれている怪しいメールやサイトの絵を見て、生徒同士で「怪しいなと思う点/その理由はなにか」を学ぶことができる教材。座学形式で学ぶのではなく、ワークショップを通して自分で考えながら見抜く力を養うことができる。しかし、事例としてあげられているものは限られており、また他人事として捉えてしまうという点を指摘できる。以上から、本研究では学習者自身が具体的な問題の事例を考え、なおかつ当事者意識を持って学習に取り組むことができるような仕組みを取り入れる。
4.調査と考察
4.1.前期のワークショップ実施と調査
5月に都立高校の情報教員に対して、情報教育の現状と今後予定されている情報デザイン教育についてのヒアリングを行った。高校での情報デザインの授業だと、どうしてもweb制作やグラフィックデザインの手法に落ち着いてしまうという問題が分かった。
また、7月には同高校にて高校1年生40名に向けて、情報を伝える側と受け取る側のそれぞれの文脈を考慮して情報を加工することで情報の作為生に気づくことができるワークショップを実施した。またその場でデザインの考え方に触れたことがあまりない高校生に対し、どの程度のレベルの教材を作ることができるかを調査を行った。アンケートの結果、「情報は簡単に操作できてしまう」ことを楽しく学ぶことができたと回答する生徒が多かったが、アイデアを考えることに対して難儀を示す生徒も少なくなかった。そのため、授業時間内の時間配分にもより気を配る必要があることが明確な課題となった。


4.2.後期のワークショップ実施と調査
12月に首都圏公立高校にて高校1年生39名に向けて、2コマの授業の中で「情報デザインとはどのようなものなのか、デザインを学ぶ意義」をデザイン4原則を使って学ぶことができるワークショップを行った。前期の反省を踏まえ、授業時間を2コマ使い授業を行う教材を開発した。しかし、前期同様アイデア発想に時間がかかってしまう生徒が多く見受けられ、時間内にワークショップを終わらせることができなかった。この点は授業に慣れている現場の教員であれば卒なく進めることができ、アイデア発想の時間も多く取れることが予想されるため、今回議題には挙げないこととする。
アンケートの結果、多くの生徒が「情報は伝える相手の状況/目的によって適切に変えて伝える必要があることが学べた」と回答した。


5.成果物「HiDee」
5.1.教材1「健康志向の社長を納得させるには?」
それぞれの文脈を考慮して情報を加工することで情報の作為生に気づくことができる教材「健康志向の社長を納得させるには?」を開発した。
あるファーストフード店の商品企画課になりきり、新商品のシェイクの中に入っている多量の砂糖を、見せ方を変えることによって社長を納得させる、という内容のワークショップ式の教材である。近年問題視されているフェイクニュースなどの情報の作為性の当事者に自分自身が立つことによって、他人事ではないという当事者意識が生まれることを想定している。

5.2.教材2「人が見やすいと感じるメニューとは?」
報デザインとデザイン4原則について学ぶ、座学&ワークショップ式の教材「人が見やすいと感じるメニューとは?」を開発した。
まず「情報デザイン」という定義の曖昧な分野に対して、「情報」「デザイン」それぞれの言葉の定義と実際に使われている意味、「デザイン」そこから「情報デザイン」という言葉の意味と学ぶべき意義を知る。その後、学んだ情報デザインを活かす基本的な知識として「デザイン4原則」を学ぶものである。その後、文化祭に出店するカフェのメニューを作るというワークショップを通して、基本的な情報デザインを体験できる教材となっている。
教材2は教材1に続いて学習することを想定しており、教材1で「情報の作為性、情報デザインという分野を学ぶ意義」を学び、教材2では「情報デザインの定義、デザイン4原則を用いたアウトプット手法」を学ぶ流れを取ることで、スムーズに情報デザインの学習に入っていけるのではないかと考える。

6.考察
教材1では生徒たちに「情報は簡単に操作できてしまう」ことを学んでもらえたため、本教材の目的にかなっているのではないかと考える。
教材2では、「情報とデザインという言葉の意味をしっかりと再認識することができた」という声が多く得られた。また、「情報は伝える相手の状況/目的によって適切に変えて伝える必要があることが学べた」との声も多かった。今回、情報デザインの考え方をアウトプットする手法としてビジュアルデザインの一つであるデザイン4原則を用いたが、デザイン初学者である高校1年生たちにも抵抗なく受け入れられ、知識として定着することには手応えがあった。これらのフィードバックをもとに本教材は初学者の学習という目的に対して妥当なものであると判断した。
しかしながら、今回制作した教材だけで情報デザインの全てを学べるものではない。あくまで情報デザイン初学者に向けて「情報デザインとは何か、これから情報デザインを学ぶ意義はなにか」をワークショップを通して学ぶことのできる教材であることは利用者の教員に周知する必要がある。
7.おわりに
1年を通して高校生向けの情報デザイン学習教材を製作し、実際に高校で模擬授業を行った。情報デザインを学ぶきっかけとなるような学習教材の内容には達していたと考えられる。しかし、現場での運用を高校教員に依頼し、フィードバックをもらうまで至らなかった為、今後はこの部分を重点的に検証していきたい。
参考文献
[1]情報セキュリティ啓発教材「ネットのあやしいを見きわめよう」 カスペルスキー