
Keywords: 高校教育, 情報, 情報デザイン, デザイン教育
1.はじめに
現在、高校の情報の授業における学習指導要領改訂が進められており、その中に“情報デザイン”の領域も取り込まれた。情報Iでは「情報デザインに配慮した的確なコミュニケーションの力を育む」とし、情報IIでは課題研究として「問題の発見、解決に取り組み、新たな価値を創造する」としている。しかし、現状は情報を専門に担当する教師数も少なく、新しい指導方法の導入に懐疑的な教師も少なくないためにスムーズな導入は難しいと予想される。そこで、我々は数年後の学習指導要領改訂を前に、どのようにすればより多くの高校生が少しで も正しく情報デザインを学ぶことができるかを考えてい く必要がある。問題発見・解決の授業を行うにあたって、 まず問題発見を行うことが第一歩であるが、問題解決に比べて問題発見に焦点を当てた取り組みは少ない。また今後、問題を発見し明確にする能力が求められる時代であることから、情報IIで扱う“問題発見”の部分に関する知見が求められている。
2.研究の目的
本研究は、高校での情報デザイン教育開始に向けて、高校教師に情報デザインを啓蒙するためのブックレットを制作する。特に情報IIで扱う問題発見・解決の単元をメインに、事例を交えながら学ぶことで、先生が情報デザインの授業を導入するための敷居を低くし、より多くの高校で情報デザイン教育が行える下地を作ることを目的とする。
3.先行事例との関連
3.1.デザインなぞなぞ
これは、身近なものに隠れているデザインの秘密をなぞなぞ形式で考え、知ることができる本である。自分とは縁遠いデザインの話を聞くより、身近なことの方が取り掛かりやすく、新たな発見があった時の驚きやインパクトが大きい。以上から、教材では身近な問題やデザインについて考えるものにしたい。
4.調査と分析
4.1.授業見学とインタビュー
4.1.1.授業見学とインタビュー
5月頃、神奈川県立住吉高校、都立神代高校で1年生が受ける情報の授業を観察調査及び教員へのインタビューを行ったところ、プログラミングの授業を行っていた。1年生の授業でもscratchを用いたり(住吉高校)、JavaScriptで演算に取り組んだり(神代高校)していた。
4.1.2.高校における情報教育の現状
• 情報教師は全国的に不足している。特に地方では採用枠自体がほぼ無く、数学その他科目を担当している先生が情報を兼任しているケースが多い。
• 情報専門の教師や講師がいない場合、授業ではOffice系ツールの使い方を学ぶにとどまることがほとんどである。
• 新しい指導方法が導入される際には、先生向けに方法論を中心に学ぶ研修が行われている。しかし、新しいことをどんどん導入していくことに懐疑的な先生も少なくない。
4.1.3.高校生について
• 1年生にプログラミングの授業が行われていたように、高校生にも大学1年生がやることはある程度できる。
• 教材を作る上で、どのような導入をするかは高校生の発想力や創造力を引き出す要素なので大事である。
• 情報に受け身であることが多く、自己認識が薄い。
4.2.出張授業
神代高校の情報教諭に協力を得て、問題の発見・解決を体験する教材を制作し、7月に同校の3年生39人に向けて1コマ40分の出張授業を実施した。教材内には問題分 析フレームワークを導入したが、アンケートの結果、多くの高校生に「問題の理由を探ることが大変だった」という意見が見られた。
4.3.教育現場での取り組み調査
8月には全国高等学校情報教育研究会、11月にはAdobe MAX Japan 2017教育セッションに足を運び、教育現場の先生方は情報デザインの授業に対してどのような取り 組みをしているのか、どのような悩みを抱えているかなどを調査した。結果、現場の教員からは「デザインを理解していない教員たちがどうやって学び、生徒を評価すればいいのか分からない」などといった意見が出ていた。 また、教科書制作側も「子供のやりたいことが学校の環境では実現できなかったという事のないようにしたい」 と述べており、改定時までに教科書制作、利用ソフトなどの環境整備、教師への教育研修など課題が山積みであることが分かった。
5.成果物
5.1.コンセプト
「高校教師が手軽に情報デザインを学べる小冊子」
5.2.概要
高校教師が、事例を交えながら分かりやすく情報デザインを学ぶことができる小冊子を制作した。情報教育に熱心な現役の先生を中心にして教育研究会などの場から 広めることを想定している。

情報デザインとは何か?というところから説明する必要があるため、小冊子は大まかに分けて
・高校教師が情報デザインの基礎を理解できるパート
・実際に授業を行える教材
の構成になっている。
これで、情報デザインの軽い知識から実践までをカバーすることができる。
教材は3つのレベルに分け、自分の身近なところで実践できるデザインから、高校生の日常生活のテリトリーを超えた場所で行うデザインまで用意した。

6.評価と考察
6.1.評価方法
現在、 普通科の高校で情報の授業を担当している現役教師に制作した小冊子を読んでもらった。
6.2.結果と考察
まず、小冊子のプロトタイプ段階では「KJ法のワーク方法について書かれただけの小冊子という印象を受け、巷にあるKJ法との違いが明確に感じられない」という評価を受けた。そこで、各教師の情報デザインに対する習熟度別に授業展開例を提示し、差別化を図った。
また、ルーブリック(学習到達度を示す評価基準を観点と尺度からなる表として示したもの)や、授業計画表の作成を提案された。しかし、私自身が教職などの資格を持っておらず、また現場の教師の方がルーブリックの作成には精通していると考え、今回は作成を見送った。
6.3.今後の課題
まず最初に、この小冊子は「情報の授業を担当しているがデザインはよく分からない」という教師にも理解される内容である必要がある。しかし、今回は情報デザインに多少の知識がある教師にフィードバックをいただいたので、「本当に初心者の先生に理解される内容か」「実際に授業として実施できる内容か」などの検証が不足してしまった。
また、授業を実施した際の評価基準(ルーブリック)や授業計画表までは専門的な知識等も乏しく作ることができなかった。
そのため、これからこの小冊子がより実用的になるためにはこの2点をアップデートする必要性がある。
7.おわりに
前期は高校生が情報デザインを学ぶ教材を制作し、後期はそれをベースに高校教師自身が情報デザインを学び、実践できる小冊子を制作した。この問題に自分なりに考え取り組むことができたことは、自分の視野を広げるとともに、デザインという概念に対して思考を深めることができたこともあり、大きな成果であったと考える。
8.参考文献
[1] 武山政直 2017 『サービスデザインの教科書 -共創 するビジネスのつくりかた』 NTT出版