協調的な学び合いに着目したグラフィックファシリテーションサポートツールの開発


Keywords: グラフィックファシリテーション, 学び合い, 視覚化

1.はじめに

会社の会議やミーティング、学校のグループワークなどにおいて、議論内容を視覚化し参加者間での効果的な共有を図るグラフィックファシリテーション(GF)が活発に取り組まれている。しかし、GFを行うファシリテーターが優れた職能を持っていればいるほど他の参加者は受け身になりがちで、自分で視覚化するという訓練を行いにくいところがある。そこで筆者は参加者の相互の学び合いに着目する。ファシリテーターだけが議論の視覚化を図るのではなく参加者全員で取り組むことにより、様々な視覚化の手法を相互で学ぶことができ、参加者全員のスキル向上に繋がると考えたからだ。そのため、視覚化の際に必要な絵や図を描くのが苦手な人も議論の場で実践しながら視覚化の手法を学ぶことができるサポートツールの開発を行うこととする。

2.研究の目的

本研究では、主要な視覚言語を事前に提供することで参加者が分担しながら議論を視覚化することを支援するツールの開発を行う。ツールを利用しながら参加者が自分に貢献できることをチーム内で共有し、議論内容に加えて視覚化のリテラシーを相互に学び合い、議論の活性化に役立てられるようにすることを目的とする。

3.先行事例との関連

グラフィックファシリテーション(GF)がある。GFは、ファシリテーターと呼ばれる進行役が議論を可視化し、グラフィックを用いて全体を俯瞰できるようにすることである。類似手法としてグラフィックレコーディング(GR)がある。これは、レコーダーがグラフィックを用いてアイディアや情報を整理、視覚化し記録することだ。この2つの手法の違いはリアルタイムで視覚化し共有するか、記録として視覚化し後に共有するかである。しかしこれらははじめにでも述べたように一人で行うものであり、相互の学び合いにはつながらない。他の事例としては、図解表現について解説した書籍[1]やドリル[2]がある。これらは絵を描くのが苦手な人はもちろん、絵を描くのは得意だがそれをどう資料作りや議論の場で生かしたらいいのかわからない人にも向けられており、利用すれば図解力を身につけることができるだろう。しかし、書籍を読んで実践する人は少なく、ドリル形式だとなかなか続かない人が多いのではないか。そのため、議論の場で実践しながら図リテラシーが学べるツールは有用だと考える。

4.調査・実験

 

4.1.調査

サポートツール開発にあたり、同研究室メンバーにインタビューを行った結果、3点の事実を抽出した。
1. 絵が得意と自称する学生でも構造をもった図をかけるわけではない。
2. 絵を描く際に他人と比較されることに嫌悪感が強い人でも抽象図形を書く場合は、コンプレックスを刺激しにくい。
3. 全員が文字と同じように図を読み書きする訓練を受けたことがない。
以上の3点から、それぞれの得意分野に合わせて視覚化する対象を分担化すること、見ながら誰でも同じような絵が描けるカタログを作成することが有用であると考えた。

4.2.実験

川崎市と専修大学が共同運営している社会人向けスクールKSソーシャルビジネスアカデミーにて世代別の顔を表したカタログを用いてワークショップを行った。丸や四角、三角など簡単な図形を描くことから始めてもらい、その後世代別の顔の描きわけをしてもらった。その際各グループに世代別の顔を表したカタログを置き、自由に参照してもらうこととした。
ワークショップ終了後に取ったアンケートは以下の通りである。(参加者9名)
1.絵を描くにあたり見本はどうだったか
・役に立った6人
・やや役に立った 3人
2.見本があれば絵を描くことに抵抗があるか
・抵抗はない 3人
・まぁまぁ抵抗はない 3人
・どちらでもない 2人
・やや抵抗がある 1人
・抵抗がある 2人
以上の結果から、半数以上の人が世代別の顔の描きわけにおいて見本があることで抵抗感が軽減するため見本は有用であると考えた。

5.成果物

成果物として「プロジェクトサポートBook」と題し、グラフィックファシリテーション入門キッドを制作した。本キッドはグラフィックファシリテーション編とイラスト編の2編で構成されている。


6.考察

事前の調査で考えた、見ながら誰でも同じような絵が描けるカタログを作成することの有用性が実験によって正しいことが分かった。また、元々絵を描くことが苦手または嫌いな人でも、カタログがあることにより抵抗感が軽減され、カタログがあれば絵(図)を描くことができるため、今回制作したツールは当初の目的である、「主要な視覚言語を事前に提供することで参加者が分担しながら議論を視覚化することを支援するツールの開発」を達成することができたのではないかと考える。また、もう一つの目的である「ツールを利用しながら参加者が自分に貢献できることをチーム内で共有し、議論内容に加えて視覚化のリテラシーを相互に学び合い、議論の活性化に役立てられるようにすること」に関しては、誰でも本ツールを利用すれば議論の視覚化を行うことができ、これにより参加者全員で相互に学び合いながら自分に合った役割で議論に参加することができるのではないかと考える。

7.おわりに

後期は前期にしっかりテーマ設定を行ったため、プロトタイプ制作とユーザーテストに時間を割くことができた。また、実際にツールを使ってもらって得た結果と意見によって、有用性のあるツール制作ができた。3年次のプロジェクトとは異なり、一人で1年間かけての卒業研究だったので不安はあったが、とても有意義な卒業研究になったと感じる。