Keywords:占い,タロット,対話,コミュニケーション,デザイン
[NE19-1210B/CDプログラム]
1.はじめに
人は生活していると、人生を左右する大きな選択を迫られる時が何度も訪れる。そして、大半の人は迷いが生じるものである。その解決策として、占い師を頼り『占い』の結果に従う人が多く存在する。例えば、現在交際中の人との相性や将来を占ってもらい、結婚するかどうかを決める、転職を考えている人が適職や転職に最適な時期を占ってもらい、いつどこに転職するかを決める、などが挙げられる。
しかし、なぜ人は占い師を信用するのか、それは、占いの結果が「当たっている」と感じるからだ。では、なぜ人は占い師の占いの結果が「当たっている」と感じるのか。そこに私は疑問を抱いた。
そこで、この「当たっている」という感覚は、協働的な答え探しという相互行為[1]、つまり、占い師とクライアントが対話をしていき、自分の中で悩みが解決できるまでの物語を完成させる行為の結果として、「当たっている」という感覚が生まれると仮定した。この過程を検証し、『占い』を新たな視点から着目することで応用できないかと考えた。
2.研究の目的
本研究では、占いの結果が「当たっている」と感じる理由を、実際に自分が占い師に占ってもらう参与調査をして、記録を行う。そこでの対話から生まれる協働的な答え探し行為を分析し、別の場面でのコミュニケーションに応用できる可能性を提示することを目的とする。
3.研究の方法
3.1.先行事例との関連
占いにおける対話から生まれる協働的な答え探し行為の事例として、卜占の性格を利用した「偽カウンセラー実験(ガーフィンケル)」が挙げられる。ト占とは、特別な方法や特別な情報源を参照することによって、過去や未来のまだ知らない事実や、懸案の状況に隠された真相は何かを明らかにするための行為であるとされている[2]。
この偽カウンセラー実験では、被験者の学生たちに新種の精神療法の実験だと伝え、隣室にいる顔が見えない「精神科医」に自分の悩みを相談させた。しかし、実際にいたのは精神科医ではなく、一枚の乱数表であった。ところが、ほとんどの被験者がその事実に気づかず、最後まで「精神科医」とやりとりをしていると信じていたのである。
この事例から、占いで対話中に矛盾した要素が出てきても、その矛盾に人々を惹きつけることによって、現在の状況を再認識させたり、そこに有意性があるような解釈に誘ったりすることができたと考えられる[3]。そこで、この手法を、他の場面でのコミュニケーションに応用することで、新しい発想や問題の解決策が見つかるのではないかと考える。
3.2.事前調査
まず占いに慣れるために、恵比寿にある「アカデメイア・カレッジ」という占い学校で、占いのサンプラーとして参加した。そこでは、西洋占星術や四柱推命などの占いの仕組みを学んでおり、タロットカードを使った実践練習などが行われていた。先生から、「占いの結果が当たっていると感じてもらうには、占い師とクライアントの相性がとても重要だ」と仰っていた。なぜなら、信用できない人や苦手な人から何を言われても、こちら側は聞く耳を持たないからだ。占い師はまず、クライアントに心を開いてもらわなければ、発言の信憑性が上がらないことがわかった。
3.3.参与調査
アカデメイア・カレッジの卒業生の方々が多く在籍しているという、恵比寿にある占いの店「デルフィー」で参与調査を行った。調査する条件として、ベテランの占い師2人(華子先生、小夜先生)、新しめの占い師2人(雅彩先生、南方シン先生)の計4名の先生に占ってもらった。内容は「私の適職」について聞き、時間は40分で、基本的にタロットを使ってもらった。調査方法として、占いの最中の会話を全て録音し、文字起こしをした。また、タロットカードの結果も写真を取り記録した。
図 1 タロットカードの結果(小夜先生)
4.研究の成果
4.1.対話の分析
4人の占い師による各40分ほどの対話を、文字に起こし分析した。占い師との対話の中で被験者である私の対応を以下の5つに分類できることがわかった。
(1) 回答の矛盾に戸惑いつつも、それを不当なものと捉えず、かえって自ら意味やつながりを見いだそうとする態度
(2) すでに終わった質問と回答の意味を再考する試み
(3) 新事実の導入などによる新しい意味やテーマの発見
(4) 発見された新しい意味を支える一連の諸事実の召喚
(5) 回答の正当性の確認
こういった手順をふんで、矛盾した回答に有意性を持たせていったと考えた。と同時に、それが被験者である私が、当初もっていた問題そのものを、大きく作りかえていくことにもなっていたと感じた。それこそ、今回でいうと「私の適職」について聞いたのに、私の学生時代の性格だったり、私の家族関係のことだったり、と関係ないことを話しており、最終的には適職が確定したわけではないが、「当たっている」という気持ちになっていた。
4.2.キャリア支援課
この占いで「当たっている」と感じた「私の適職」についての結果を比較するために、専修大学のキャリア支援課の木村さんに、就職相談として「私の適職」について相談してみた。ここでも40分程度の時間で対話して、録音し、それを文字に起こして分析した。
すると、ここでも「私の適職」について聞いたのに、私の性格だったり、私の家族関係のことだったり、と関係ないことを話していた。しかし、最終的には適職が確定したわけではないが、なぜかここでは「相談してよかった」「解決に近づいた」という気持ちになっていた。
4.3.研究室展示会
2022年1月20日金曜日と21日土曜日に、上平研究室の展示会を行った。私はそこで、参与調査をした占いの文字起こしを、色付けして読みやすくしたものを印刷し、全部張り出して展示を行った。また、どこのお店でどのように参与調査を行ったかをポスターにまとめ、展示した。そこにQRコードをつけて、読み取ると、音声を聞くことができ、文字起こしのデータを読めるようにもした。文字起こしを自分以外の人に読んでもらい、占いに対しての偏見などをなくして、占いを身近に感じてもらおうと考えた。
読んでくれた人は、全員面白がり、そこでの会話で「アイスブレイクとして使えたら、コミュニケーションに応用できるのでは」という反応が得られた。
5.考察と応用
分析結果により、「当たっている」や「解決に近づいた」と感じるのは、占いの対話での答え探し行為は、結果の正当性よりも、行為自体に価値を見出していると考えた。また、大学のキャリア支援課での就職相談でも、同様に、結果よりも対話の過程に価値を見出していると考えた。
この考察から、占いの対話から生まれる協働的な答え探し行為を、「大学の就職相談」「友人の悩み相談」「初対面の人との会話」「企業のワークショップでアイスブレイク」などに応用することで、対話の結果の正当性よりも、対話という行為自体に価値を見出して、より良いコミュニケーションが築けるのではないかと考える。
6.今後の課題
最後に、今後の課題として、応用できる場を見つけたので、占いを実用的かつ簡単なプロダクトを作る、例えば、誰でも使えるタロットカード、などを作成して、占いの応用できる可能性を広げたいと考えている。
参考文献
[1] 荒木奈美 ポール・リクール「物語的自己同一性」に関するノート:「物語(ナラティヴ)」を通して見えてくる「自己性(イプセイテ)」に関する考察 2012-10 171-179 札幌大学総合論叢
[2]杉下かおり 卜占研究の可能性:隠蔽された解釈行為としての卜占 1996 354-365 民族學研究
[3] 浜本満 「卜占(divination)と解釈」 吉田禎吾・江淵一公・伊藤亜人 『儀礼と象徴:文化人類学的考察 吉田禎吾教授還暦記念論文集』 1983 21-46 九州大学出版会
