
Keywords: 発想法, 「問い」のデザイン, デザイン思考, スペキュラティブデザイン
1.はじめに
現代を生きる私達は、様々な問題を抱え、同時にそれを解決する画期的なアイデアを生み出すことを求められている。固定概念から逃れるためにマインドマップやブレーンストーミングといった発想法が生み出されてきたが、自由な発想や画期的なアイデアがそれによって導かれることはごく稀である。なぜなら、私たちは発想するときに、自身の経験や知識から連想される先入観から逃れることが難しいからである。
そこで近年注目され始めたのが「問い」自体を発想するための手法である。問題を解決するためのアイデア発想の段階に先だって、問題となっている状況をどのような角度から捉えるのかの「問い」の志向性を検討することで、アイデアはより焦点が絞られたものとなる。また捉える角度を自身の「前提」や「先入観」と異なる視点にする工夫によってより多角的な「問い」を生成できる。しかしながらこれらの手法を取り入れることで変数が増え、時間もかかるため、問題解決を主眼としたワークショップなどでは省略されがちである。
2.研究の目的
本研究では、学校や企業などのデザイン学習の場での利用を想定した、問題解決を主眼としたワークショップの前に多角的な「問い」を生成するための発想ツールを開発する。
このツールによって、既にある技術や価値観など、自由な発想に制約をかけてしまう「前提」をこのツールによって強制的に変え、事象を一面的ではなく多角的に捉えていくことで着眼点を揺さぶっていく。そしてその後のアイデア展開をより豊かにする良質な「問い」を生成することを目的とする。
3.先行事例との関連
「問い」を生成する方法の先行事例として「How MightWe(以下「HMW」とする)」[1]が挙げられる。定型の「How Might We~」に続く文章を考えることによって、問いの志向性を検討する方法として世界中で広まっている。しかし「HMW」は「我々はどうすれば◯◯できるか」と日本語訳されることが多いため本来の「Might(推量)」の意味が薄れ「できるか、どうか」の実現可能性を意識させてしまうため、既にある技術や価値観から逃れにくいと言
える。
また、推量や憶測の観点から「問い」を創造するデザインの方法論としてスペキュラティブデザイン[2]と呼ばれる領域がある。スペキュラティブデザインの「問い」には解決不能な問題を克服する為には既にある価値観や信念を疑い、逆転させ「思索=speculate」するきっかけを作る役割があるとされる。これらは、根本的に「未来はこうもありえるのではないか」といった解決しない憶測の「問い」を創造することを目的としているため、問題解決とは対極の姿勢であると言える。本研究で対象とする「問い」は、解決の前の探索的な段階に見出されるものであり、問題発見と対応するものである。既にある価値観や信念に対して改めて疑いの目を向け、解決の糸口となるような視点を探るためのフレームと位置づけられる。
4.調査と提案手法
4.1.記入型ワークシートによるワークショップ
様々なデザイン学習の場で利用されることを目標とするため、ツール形態を参加者が記入しながらワークショップが進むワークシート型のスタイルを想定し開発した。
4.2.ロールプレイングの導入
強制的に自身の経験や知識から連想される先入観から逃れる方法として、ここでは「学級委員長(以下「委員長」)」「ギャル」「まとめ役」と呼ばれる人物像(キャラクター)を演じるロールプレイングの手法を取り入れた。「委員長」は自身の経験や知識から連想される先入観に固執してしまい自由な発想を苦手とする人物像、「ギャル」は辞書的な外見を表現する意味ではなく、前提知識が不足しているが故の「感情的,直感的,理不尽,自己中心的,楽観的」な発言を意識せず可能にしている人物像、「まとめ役」は「委員長」と「ギャル」の双方の発言を聞いた上で「問い」を提案する役割(ロール)を想定している。
4.3.女性向け雑誌を参考にしたギャルシート
ワークショップ参加者が4.2.で述べた「ギャル」の人物像によりロールプレイングが難しいという問題を見出した。そこで参加者にないイメージを形成しやすくすることを考慮して、10~20 代女性向け雑誌「小悪魔ageha」[3]より「ギャル」の内面的な人物像を連想しやすくする言葉の調査を行った。そのデータを元に再度編集・構成し、役割に沿った考え方をサポートする仕掛けとしてのシートを作成した。
4.4.オリジナル「問い文」のテンプレート
先行事例である「How Might We」を改めて日本語訳し、デザインの方法論としてスペキュラティブデザインの考え方を加えたオリジナルの「問い文」となるテンプレートを作成し、ワークショップ参加者がテンプレートに文字を埋めることで着眼点をずらした「問い」を生成することを可能にした。
5.実装と実証
「委員長とギャル」ワークショップ
ツールを用いて、本学部生を対象に「待ち合わせと遅刻」というテーマで2回ワークショップを行なった。


6.結果
1回目のワークショップでは「ギャル」へのロールプレイが上手く出来ず「ギャル」的な発言をすることができない参加者が出た。その参加者は、より「委員長」的な実現可能性を意識した「問い文」を生成した。2回目のワークショップでは「ギャル」のイメージを形
成しやすくする仕掛けとして「ギャルシート」を実装したことで普段使っている発想法では出てこない発言が自然と可能になった。また「問い文」は参加者自身が選択する「ギャル」の発言によって「委員長」的な実現可能性を意識した提案に寄ることもあり得ることが判明した。
7.考察
1回目のワークショップの結果から、より「ギャル」の発言を元に生成した「問い文」の方が、良質な「問い」だと考え、「ギャルシート」として「問い文」を生成しやすい「ギャル」の発言を促す仕組みを加えたが、2回目のワークショップによって良質な「問い」とは参加者がアイデア展開を豊かにすることが可能かどうかを判断し初めて良質な「問い」と決定されることが明らかになった。「委員長」的な実現可能性を意識した提案に寄ることも「問い」の発想としては役割を果たしていると言える。
8.おわりに
今回は自分がファシリテーターとしてツールを機能させたが、デザイン学習の場などにおいて、誰でもファシリテーターとしてツールを活用可能な状況に公開する必要がある。問題を解決するためのアイデア発想の段階に先だって、先入観から逃れることの必要性と「問い」の発想の有利性について理解を広めていきたい。
参考文献
[1]スタンフォード大学 d.School「How Might We」
http://www.designkit.org/methods/3
[2]スぺキュラティヴデザインアンソニー・ダン,フィオナ・レイビー(2015) 『スペキュラティヴ・デザイン 問題解決から、問題 提起へ。』(千葉敏生訳)