
Keywords: 一人暮らし, 楽しい, 手間暇, 食生活
1.はじめに
大学進学を機に親元を離れ、一人暮らしを始める学生は少なくない。地元を離れて新しい環境で学習しつつも、今までは「やってもらっていた」家事もしなければならず、ほとんどの学生は次第に生活が乱れていってしまっているのが現状である。特に食生活の乱れは著しい。しかし、食生活の乱れはいずれ生活習慣病を始めとする命に関わる大病を招きかねない。そこで筆者は、一人暮らしの大学生が食事をつくりたくなる動機や興味関心がいかに育まれるかに着目した。
2.研究の目的
本研究では、一人暮らしの大学生を対象とし、料理を作る「手間暇」を楽しい体験に変化させる食生活支援のデザイン提案を行う。これによって普段面倒くさいが優先されて、食生活が乱れている学生のライフスタイルを持続的に改善していくことを目的とする。
3.先行事例との関連
現在の先行事例の一例として、IKEAの「Cook This Page」[1]が挙げられる。これは、クッキングシートに食材のイラストが描かれており、その通りに食材を置いていけば料理ができるというものである。他にも「理系の料理」[2]という分量を正確に描いてあるレシピブックや「syunkonカフェごはん」[3]という小説風のレシピブックなど、レシピに加えて「面白い」「やってみたい」と思わせるアイディア次第で人を動かすことができるのではないかと考える。
4.調査と分析
一人暮らしの食生活の実態を知るために、一人暮らしをしている大学生8名にデプスインタビューを行った。その結果、食生活が乱れている大学生には以下の共通点が見られた。
・「食」についてあまり興味がない
・料理を作ること=「苦」であり、作ることに魅力を感じていない
・健康的でないことは感じているが、食生活の乱れについての危機感がない
・調味料等がなく、レシピを見ても必要なものを揃えるのが大変でやる気がなくなる
また、普段自炊をするかしないかに関係なく、部屋が汚くなっていくにつれ食生活が乱れがちになるという回答も得られた。
以上のことから、食生活についての敷居が高くなっているのではないかと分析する。
そこで、「取り組みやすい敷居の低い切り口を作ること」「食の楽しさを知ること」「食生活の重要さについて知ること」が必要であると考える。
一人暮らしでも、観葉植物を育てたりやペットを飼っていたりする人は少なくない。生き物との共存や成長については手間暇をかけることが「面倒」ではなく「楽しい」と感じている。つまり「手間暇」に対する「楽しい」と「面倒」という感情は紙一重であると分析した。
5.成果物
5.1.コンセプト
普段食生活が乱れがちな一人暮らしの大学生に向けて、「日々の生活に”楽しい手間暇”を作り出す一人暮らしの食生活を提案すること」をテーマに作ることをコンセプトにする。
5.2.概要
再生野菜、ドレッシング作り、果実酒作り、プランター野菜作り、手間暇を楽しむレシピ、と比較的手に出しやすいものから順に項目を作り、女子向けテイストのフリーペーパーとしてまとめた。この成果集の中にはインタビュー時に発見した「食生活と部屋の綺麗さとメンタル面の関係」についても記載している。

はじめは、食生活の手間暇を「面倒だ」と感じている人でも手がつけやすいように手軽に始められるような敷居の低いものから紹介し、次第に“食べるまでに3か月ほどかかる”手間暇を楽しいと思い取り掛かれるようなステップを踏む順番を重要な編集方針とした。
6.評価と考察
6.1.評価方法
普段食生活が乱れている大学生5名に、上記した項目に対して「興味を持つか」「実際にやってみたいと思うか」1年間断続的にインタビューを行い、食生活について意識が変わるか調査した。
6.2.結果と考察
被験者5名中3名が、「食生活の手間暇」を自発的に始めるようになった。筆者がこの一年間実際に食生活の手間暇を実践しているところを見聞きしているうちに自身も再生野菜やプランター野菜を育てたり、果実酒を作ったりという手間暇を「楽しそうだ」と感じ、始めたそうだ。
また、研究を進めている上で、被験者達との関係性も良い方向へと変化した。
・被験者が再生野菜、果実酒を作り始め、筆者に振舞ってくれた
・被験者が野菜を育て、筆者が収穫した野菜を調理し2人で食事をするという新たなコミュニケーションが生まれた
・筆者が長期家を空ける際に、被験者の一人がプランター野菜の水やりを自ら買って出てくれた。その後、楽しさに目覚め自身の家でもプランター野菜を育てている
上記のように、 “食生活の手間暇”が新たな日常のコミュニケーションを作り上げたというのも大きな成果であると言えるだろう。
このことから、「食生活の手間暇」に対する敷居を下げることや、実際に他人(今回に関しては筆者にあたる)がやっているところを見せることで周囲の意識は改善され、食生活に興味を持ち手間暇を「面倒」から「楽しい」と意識を変えることが可能であると発見した。
また、食生活の楽しい手間暇をかけるようになってから、心なしか部屋もきれいになり、普段の生活習慣やメンタル面に関しても改善されたと報告があり、はじめに仮定していたように心と食生活と部屋のきれいさには少なからず関係性があると実証することができた。
6.3.今後の課題
上記以外の2名は「そもそも食生活についてあまり関心がない」「お腹が満たせてばそれで良いので手間暇をかけたいと思わない」という回答結果になった。今後はそのような人たちでも、手間暇をかけることで食生活に関心を持ち、乱れている食生活を少しずつ改善したいと思える切り口の違うアイディアを提案できれば良いと考える。
7.おわりに
今回筆者は一人暮らしの大学生を対象とし、料理を作る「手間暇」を楽しい体験に変化させる食生活支援のデザイン提案を行った。
この研究を一年間続けて、被験者のみならず、筆者自身も食生活、部屋の綺麗さ、そして日常の生活においての心もちが良い方向に変わったと感じ、食生活の大切さを改めて体感することができた。
この一年間を通して人の意識を変えることは簡単なことではないが、自分が変わることで周りの人も少なからず影響され、より良い方向に変わっていくことを実際に見ることができた。
8.参考文献
参考文献
[1] Cook This Page
[2] チューブ生姜適量ではなくて1cmがいい人の理系の料理,2015,後藤隆介,西和システム
[3]syunkon カフェごはん,2011,山本ゆり,宝島社