
Keywords: ワークショップ, アーカイブ, ドキュメンテーション, フォーマット
1.はじめに
人々が場の中に参加しながら主体的に学びを構成していく、いわゆるワークショップと呼ばれる活動の場が増えている。
一方で、ワークショップのアーカイブがしかるべき形で残されなかったがために、その日限りで完結してしまい、その場にいなかった人はその内容をうかがい知ることができないというケースも珍しくない。また、その場にいない人にとっても価値のあるアーカイブを残すには、Webに関する専門的な知識と技術や、時間を割き実際に手を動かして作成するという労力が求められるという現状がある。仮にアーカイブが残されていたとしてもw、それらは参加者の主観的な情報が欠けたものであったり、逆に客観的な情報が欠けたものであったりするものが多い。個人サイトに綴られた備忘録のようなものが残されることはあるが、運営側が作成したオフィシャルなアーカイブが残されることは極めて稀である。
「ただの体験学習」で終わらせないためには、運営側と参加者だけではなく、その場にいなかった人が読んでも鮮明に追体験できるカタチでアーカイブを残すことが必要だといえる。
2.研究の目的
本研究は、川崎市岡本太郎美術館の主催するアートプロジェクトを題材に、1)筆者自身がスタッフとしてワークショップに参加し、運営者側の視点と参加者側の視点を取り込みながらどのように記述できるか、そして閲覧者と共有できるかの検討を行う。2)アーカイブに必要な情報構造を考慮した画面フォーマットの提案を行う。3)それらを利用して、Webに関する専門的な知識のない美術館のスタッフたちでも効率的にワークショップのアーカイブを作成できるようにすることを目的とする。
3.先行事例との関連
ワークショップのような、日常の価値ある体験を対象とした情報デザインの可能性を探る先行事例として、原田の「経験の現像所」[1]が挙げられる。これはワークショップで発生した出来事を、その場にいなかった人にとっても価値のある情報として享受できるようその場で視覚化し、これをパッケージ化して配布・公開するものである。放っておけば蒸発してしまう出来事を、どのようにカタチにとどめるか模索する、という試みは本研究と共通している点だといえる。しかしながら、成果物が紙媒体として想定されているため、手に取れる閲覧者が限られてしまうことが欠点として挙げられる。
以上から、本研究では、従来のアナログなメディアではなく、フォーマット化しやすいウェブサイトおよびユーザインターフェースといったデジタルメディアを利用するアプローチをとる。これによって作成者が手軽に残せるということに加えて、閲覧者が関心を持ったタイミングですぐ見ることができるように、アーカイブへの距離を近づけることを狙う。
4.成果物
ワークショップでうまれた「写真」や「客観的な情報」、「参加者・主催者の発話」といった要素を整理し、HTML、cssおよびJava scriptを用いてこれらの情報を構造化した。1)スマートフォンでの閲覧を想定し、レスポンシブWebデザインを採用した。ブレイクポイントを複数設け、タブレット端末で閲覧した際にレイアウトが崩れないよう配慮した。2)タイムテーブルを細かく記入した。ワークショップを追体験させるに当たり、時間の流れを正確に把握することが重要だと考えたためである。3)メインエリアをdiv要素を積み上げる形で構成した。HTMLの編集にリテラシーのない人でも直観的に編集ができるよう、pタグの内容と画像のパスを変更するだけで同じように作成できるよう工夫した。4)ワークショップ中にどのような発話が生まれたかを、参加者側・運営側に分けて記録した。運営側の客観的な文字情報だけではなく、「生の声」を記録することで、参加しなかった人にも感情を伝えることができると考えたためである。5)div要素が可視領域に入った際にフェードインするアニメーションを採用した。発話が『生まれた』ことや出来事が『起きた』ことを想起させる意図がある。6)活動時間、非活動時間を色分けした。これによりワークショップが日常から独立したイベントではなく、参加者のその一日や以後の生活にも影響を及ぼすことを表現した。7)ページのフッターにTwitterシェアボタンとFacebookシェアボタンを配置した。ページを閲覧した人が簡単に共有・拡散できるようにすることで、先行事例で挙げた「経験の現像所」との差別化を図る狙いがある。

5.考察
『2.研究の目的』で挙げた各目的について、1)実際にワークショップのスタッフという形で参加することで、ドキュメンターの視点と参加者の視点とで情報を収集することができた。2)それらの情報を構造化し、Webページの編集についての知識のない人でも編集可能な形を模索した。3)岡本太郎美術館の学芸員に実際に編集してもらうことはかなわなかったが、打ち合わせの中で、「このようなフォーマットが用意されていることで、ワークショップのなかのどのような情報を収集すればよいのか分かるので、間接的な助けになっている」というコメントを貰うことができた。
また、アーカイブページを見た人へヒアリングを行い、「ワークショップの内容を理解することができる」という意見を貰うことができた。一方で、「吹き出しが左右に分かれていることに何か意図があるのか」というコメントもあった。デザインが高度になり過ぎて、アーカイブを読んだ人に意図通りに伝わらない可能性があることが課題として挙げられる。
6.おわりに
過去三年間に自分が制作したWebサイトと見比べると、中間報告書で掲げた「Webサイトのデザインや構築を通じての技術的なスキルアップ」という目標は概ね達成できたと考える。しかしながら、何をゴールと設定するのかを企画の段階でもう少し詰める必要があったように感じる。Googleアナリティクスを用いたアクセス解析や、それを踏まえた提案など、もう一歩踏み込む余地があったように思う。また、アーカイブの作成・公開に当たり、美術館側とのディレクションが滞る場面が幾度かあったことが心残りである。
改善の余地は認められるが、打ち合わせの言動や立ち居振る舞いを鑑みるに、岡本太郎美術館側の満足度は高めであるように思う。本研究がワークショップ参加者と非参加者を、ひいては岡本太郎美術館と川崎市民をつなぐ架け橋になることを望む。