
Keywords: インフォグラフィックス, ペーパーフォールディング
1.はじめに
情報が溢れかえる社会において、重要なことを分かりやすく伝えることの意義が増し、インフォグラフィックスが注目されてきた。インフォグラフィックスとは、ある情報のまとまりをイラスト・グラフ・地図などの視覚的な方法を用いて伝える図表現の総称である。良質なインフォグラフィックスは大きな伝達効果を持つが、複雑な表現を行うと問題が生じることがある。例えば、擬似的で3次元的な構造をもった図は、一方向からの視点でしか読み解けないため、空間としてすばやく置き換え正確に考えられる空間認識能力が必要となる。しかし、地図を読み解くのが苦手である人がいたり、スポーツなどで飛んでくるボールの距離感が掴みにくい人がいたりと、この能力は誰にでも備わっているわけではないため、受け取り手によっては理解しづらいという問題がある。
そこで筆者は、擬似的3次元空間のインフォグラフィックスをペーパーフォールディングの技法を用いて立体化することで、空間認識力の弱い人でも楽しく空間的に理解することを支援できるのではないかと考えた。ペーパーフォールディングとは、一枚の紙に切り込みを入れるだけで立体物を作成する技法である。糊やハサミを使用しないため、組立作業の簡易化や折畳める点、切りくずのゴミを出さない点が特徴である。
2.研究目的
本研究は、空間表現を取り入れたインフォグラフィックスの可能性を探ることを目的として、糊やハサミを使わない簡易的な手法について検討を行う。人々が自分で組み立てながら立体化することを通し、3次元的視点を想像するのが難しい人でも空間的・構造的な理解を深めることができるようにすることを目指す。
3.研究方法
先行事例として、ペーパーフォールディングの技法を逸早く探求したデザイナーにジョセフ・アルバースがいる。1930年頃の後期バウハウスにおいて、一枚の紙に切り込みを入れるだけでどこまで意外性のある美しい立体を作ることができるかという制約を創造性教育に取り入れた。
アルバースは紙が生み出す構造の審美性に着目していたが、シンプルな紙を組み立てることには別の側面もあると考えられる。私の研究は、ペーパーフォールディングという方法を用いて、3次元的な視点のグラフィックスを空間化することで、情報の理解を支援できないか、という点に着目する。
4.試作
文献[1]を参考に、一枚の紙に切り込みを入れるだけで立体化することができるか5点の試作を行った。また、複雑な概念図の事例として教員の研究である「LIVING LAB」のインフォグラフィックスを立体化した。


5.実験
成果物の一つである、大学生活4年間という時間を表した立体物「カリキュラム」を、現役の大学生が実際に組み立てることでどう感じるか調査を行った。
5.1.実験方法
4年生までを対象に55人に調査を行った。一枚の設計図に切込みと折目を入れた状態で、山折りと谷折りの指示のみを記載し、これをもとに自力で立体を組み立てる。
5.2.実験結果
自分で立体を組み立ててみることで、図形だけを見るのとは違う感覚を得られたかどうかアンケートを行ったところ、図2のように得られたと答える人が多かった。

他に自由記述でも、「自分のこれまでの歩みを擬似的に追体験した」「残りあと僅かだととても実感した」といった、今までの大学生活を振り返って実感した人が多くいた。中でも4年生は特にそれを強く感じた人が多かった。
6.研究結果
カリキュラム」を使った実験により、実際に使う人自身が立体を制作することで、その立体に自身を投影しやすいということがわかった。平面であるか立体であるかという問題よりは、自分の手で立体を組み立てるということ自体が思い入れを増やす要因であると考えられる。
また、立体物に自分の人生を当てはめることや、「組み立てる」という工程自体の中で、その場にいる人同士で会話が発生したことから、一つのコミュニケーションツールとしても利用することができそうだ。
7.成果物
大学生をターゲットとした「カリキュラム」を、「人生」「未来」を含めた3つの視点で見ることができる立体物。
7.1.「カリキュラム」
階段のような形で表し、1段をひと月に見立て大学4年間を表した立体物。

7.2.「人生」
日本地図の上に、自分が通った小学校の名前を記した立体物を乗せる。母校を思い出すことや、他の人がどこの小学校に通っていたか知ることで会話が生まれる。

7.3.未来
一つの山折を1年とし、この先約80年分がどれくらいの長さになるのかを表した立体物。

8.今後の展望
立体物を制作する際に、難しいものは純粋に作ることを楽しんでしまい、何も考えずに作業してしまう人がいた。そのため、立体化は難しすぎないもので、且つ使う人がその立体物の意図を感じられるようなものでなければならない。加えて、切り込みを入れた設計図の複製には苦労したためそれの簡易化が今後の課題である。
9.おわりに
「カリキュラム」「未来」「人生」というものは数で表す情報ではないため、インフォグラフィックスにすること自体が困難であり、理解の深さの比較までに至らなかった。しかし、実体化することに意味があるのではなく、その人自身が介入し、手間暇かけて立体化することが大事であることと、制作を通して人と会話が生まれることが今回の研究でわかったことが大きな成果である。