
Keywords: 情報デザイン,教育,メディア
1.はじめに
2020年に改訂予定の次期学習指導要領では高校での情報科目の授業構成が変更され、情報デザインが情報I(1年生配当)および情報II(2年生配当)の指導内容に追加される。高校での情報デザイン領域の教育は問題発見と問題解決に取り組み、新しい価値の創造(課題研究)へと繋げていくことを目標としている[1]。
しかし、高校情報で新規に導入される情報デザインの教育手法はほとんど形成されておらず、次期学習指導要領を基にした情報デザイン教育を行うことは困難な状況となっている。この状況を解消するためには、デザイナーが情報デザインの知識や思考方法を学習内容や教材の設計と調整を行う教育者に共有し、教育者は得た知見よりデザイン思考を基にした教材等のアウトプットを製作することが望ましいと考えられる。
2.研究の目的
本研究では、高校での情報デザイン教育の教育手法や教材に応用することのできるデザインの考え方や視点をデザイナーがウェブメディアとして提案し、そのメディアを通して教育者が情報デザインの知見を得た上で、自ら情報デザインの教育を設計することができる双方的なデザイン学習メディアを開発することを目的とする。
3.先行事例との関連
高校でのデザイン教育は現在カリキュラムとしては設定されておらず、一部高校で独自に情報教員がAdobePhotoshopなどのツールを用いたデザインの教育を行う程度に留まっている。これら独自教育の多くは、情報科の学習過程イメージ内のうち計画の実行という点では実践的である。しかし、理想とされる学習過程からは乖離したものとなってしまっている。
一方、デザイナーによるデザインの考え方や視点の共有といったメディアとしては、EKRITSなどデザイナー向けのものは既に存在している。しかし非デザイナー向けの中でもとりわけ「高校生向け情報教育に応用させる」ということを目的としたメディアは形成されていない。以上のことより、本研究ではデザイナーと教育者との双方的なメディアの開発に取り組むこととした。
4.調査と分析
4.1.前期に行った調査と分析
5月に行った川崎市立住吉高校および東京都立神代高校の情報の授業の見学と、7月に東京都立神代高校で行った高校1年生40名に対する情報デザインをテーマとしたデザイン学習の導入となる特別授業より、教育者が教育する対象となる高校生のデザインに対する思考やレベル感の観察と調査を行った。
この調査によって、高校生を対象としたデザイン教育では実技的な要素を多く取り入れたものよりも、高校生自身が理解できるもの(例:カレーライス)を題材としたデザインの思考面や発見力を強化するための教育をこの段階では行うべきであると考えた。
4.2.後期に行った調査と分析
多くの高校生が普段から利用する駅や施設などを中心にメディアの題材となるデザインのフィールドワークを行った。様々なポイントの中から「ピクトグラム」「トイレ」といった高校生と、高校生を教える立場の非デザイナーの教育者にとって理解しやすいデザインのポイントを選択し、記事や読者への問いかけを行うこととし た。
一方で情報教員へのライフログ調査を1週間を行い、仕事と家庭の事情で情報デザインに関する新たな知見を得られる時間を得られない上、手段も不明瞭であることが判明した。このことから、空き時間にウェブ上で読むことのできる情報教員向けのウェブメディアのニーズが潜在的に存在しているという仮説を立てた。
5.成果物
5.1.コンセプト
「デザイナーによるデザインの知識や思考、発見などをウェブを通して教育者に対して広く共有するメディア」を目指し「DESIGN SHORT SHORT」を開発した。このメディアでは、メッセージやトイレ、ピクトグラムといった私たちの身近にあり、高校生向けの情報教育に利用することができるものにスポットを当て、デザイナーが発見した身近なものに潜むデザインをショートショート小説のように読みやすいコンパクトな記事を公開し、それら記事を基にしたデザイナーから教育者に対する問いかけを行った。この記事と問いかけ、そしてそれに対する解答を行うことでデザイナーと教育者の双方的なメディアとなることを狙った。
5.2.成果物概要

「DESIGN SHORT SHORT」は高校生向けの情報デザイン教育の教材設計・開発に応用できるようなデザインの考え方やデザインに関する発見を紹介するウェブメディアです。デザイナーなど有識者による記事は「EPISODE」としてカテゴライズされ、知見を得るためのものとして、一方私たちから教育者に対する問いかけを行う意味でEPISODEを基にした「QUESTION」としてカテゴライズし、デザイナーや有識者と教育者双方をつなぐものとした。
後期に行った情報教員への調査によって、自宅でパソコンを用いて教育に関する知見を得ることが多いことが判明したため、モバイルファーストではなくP Cファーストのデザインを採用することに決定した。
6.評価と考察
6.1.評価方法
本成果物の評価方法としては、2018年1月現在高校で情報を担当する教員2名に、記事を閲覧していただいた上で以下の点についての評価を依頼した。
[ 1 ] 高校生向けの情報デザイン教育に利用できるレベルとしては適切か
[ 2 ] 高校の先生向けに好奇心を引くようなコンテンツであるか
[ 3 ] (記事を読んだ上で)QUESTIONのレベルは適切であったか、またQUESTIONを用いた対話についての実現可能性
[ 4 ] 「短時間で知見を得られ、情報デザインの教育に応用できる」という記事コンセプトに適合した記事・ QUESTIONであったかどうか
6.2.結果と考察
カレーやトイレといった普段から見かけるものを高校生向けの情報デザイン教育のテーマとして用いることはレベル的にふさわしく、また教育者向けメディアで取り扱うテーマとしては、教育者に好奇心を抱かせるものであった。また多忙な教育者に対するメディアをターゲットにしていることから「短時間で知見を得られ、教育に応用できる」ということを記事コンセプトとしていたが、このことについても適切にコンセプトに沿った記事を用意できていた。
しかし、デザイナーと教育者の双方性を産み出すためのQUESTIONを挟んだコミュニケーションは現状デザイナー側から、直接教員側に依頼する形となっているため、 完全な双方性が創出されず、部分的なものに留まってい る。また、QUESTIONでデザインの発見を教育者から集 め、それに対するアンサーを書いていくというコミュニケーションの方式は、教育者のタスク面と時間面から難しいという指摘をいただいた。
「DESIGN SHORT SHORT」が今後情報教育者向けのメディアとしての価値を産み出していくには、このメディアにおいて重要な「双方性」を保つことが重要である。 そのために、教育者とデザイナーの間の対話の形を教育者の現状に沿ったものへと改善させていく必要があると考える。
7.おわりに
「DESIGN SHORT SHORT」はデザイナーと教育者の双方的なメディアを目的とし開発を行ってきた。このメディアは情報デザイン教育開始前夜の今だからこそ重要 な価値があると考える。本研究で行った特別授業やウェ ブメディアの設立およびコンセプトの設計は、良質な情 報デザイン教育を行うための第一歩として貢献できたのではないかと感じる一方で、来る次期学習指導要領に必要な双方性の向上やメディアの品質の向上、また情報教員に対するデザインを学ぶ土壌の醸成という部分では、 あくまで小さな第一歩に過ぎないとも感じる。
メディアタイトルの基となったショートショートが日本で星新一、江坂遊、田丸雅智と年月を越えて受け継がれていったように、この「DESIGN SHORT SHORT」もデザイン教育のリードメディアとして、受け継がれ、そしてより一層の発展をしていくこと切に願う。
8.参考文献
[1] 幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学 校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答 申)(中教審第197号)