Keywords:デザインリサーチ,紙チケット, おみくじ, 飴
[NE19-1136K/CDプログラム]
1.はじめに
デジタル化が進み, デジタルチケットが普及するようになった.デジタルチケットは, チケットを持ち歩く必要がなく, オンライン上で購入することもでき, 紙と比較して圧倒的に“便利”である. また, 対人でのやりとりを減らすことができるため, 感染症対策の1つとして取り入れられ, 多くの文化施設や公共施設で活用されている[1].
しかし, 東京ディズニーリゾートはパークチケットを, デジタルチケットから紙チケットに変更することができるシステムを取り入れており[2], 紙チケットのように実際に手に持つことができるチケット(以下, 「物理的チケット」とする)を大切なものと意味づける人は一定数存在することがわかる. また, デジタルチケットは通信障害やシステム障害の観点から信頼性が低く, 安定して手元にある物理的なチケットの需要は, これから先も求められていくと推測される. そこで, 便利なデジタルチケットではなく, 物理的チケットが持つ潜在的な体験価値に着目し調査することで, 新たなチケットの可能性を発見することができると考えた.
2.研究の目的
本研究では, 1)さまざまな形で生活の中に存在する物理的チケットを収集し, それらが私たちに与える体験価値を分析する. 2)次にデザイン的観点から, 物理的チケットのプロトタイプを制作し, 利用者が実際に体験できるようにする.
これらの探索的なデザイン・リサーチを通して物理的チケットの持つ別の可能性を探索していくことを目的とする.
3.活用されている物理的チケットの事例
現在の物理的チケットは, 文化施設などでは紙で作られ, I Cカードや年間パスポートなどはプラスチックで作られていることが多い. しかし, 紙やプラスチックは自由に形を変形することができる性質を持ち, 厚さも色も同様に様々な形のものがある. このように, 物質の潜在的な可能性を感じられるチケットや人と人が関わり会うことで成り立つチケットの事例はまだない.
4.物理的チケットの調査
4.1.調査概要
自身で集めていたチケットに加え, 研究室のメンバーや友人の協力を得て集めた170枚のさまざまなチケットをMiro上に蒐集する. 次に, 用途ごとに整理し, 乗り物チケット, ライブチケット, 引換券, 入場券などにラベル付けして, 21種類に構造化する. 次に, ラベル付けしたMiro上のチケットにK J法を用いて出された事柄を,付箋でまとめる.
4.2.調査結果
これまでチケットと認識していなかったものも含まれることが一覧化され, チケットは私たちにとって, とても身近で, 意識をしてないうちに利用して生活していたことがわかった. チケットは, たった1枚の紙にすぎなくても, 社会の中の約束ごとを目に見えるようにする役割を持っており, デザインや使い方によっては, 全く新しい用途にも変えることができること見えた.
基本的に物理的チケットは, 四角く, 財布に収納できるくらいのサイズ感で, ツルツルした表面のものが多いことがわかったと同時に, 紙質や厚さ, 表面などを変えるだけで, 特別感を演出することができ, 捨てるのを躊躇させ残したくさせることも可能になると気がついた.
一覧化されたチケットの中には, チケットとしての役割だけを持つものもあれば, 「歓迎」「ワクワク感」といったチケットの製作者と使用者との関係を密にするような仕掛けがあるチケットも多く見受けられた.
4.3.考察
この調査を通して著者は, 2つの気づきを得た. チケットはただ, お金と経験を等価交換するためのものではなく, もっと先の, 〈利用者の行動を変える可能性〉を持っていること, そして, チケットはただの紙切れに過ぎなくとも, デザインによってはチケットの制作者と使用者, または使用者同士の〈関係を良くするためのきっかけ作り〉の1つとして用いることが可能であることである.
本調査で分かった, 物理チケットの大きさや形, 利用目的達成だけの用途であるなど, 従来のチケットであるべき姿に囚われずに, 新しいデザインを模索していくことで新たな可能性を生み出すことができる. デジタルチケットの便利さ以上の価値を, 物理チケットは生み出すことができると考えた.
5.物理的な意味の可能性を示す成果物
5.1.おみくじチケット
神様から[お告げ]を貰おうと, 神社に行くとおみくじを引く人は多い. 初詣に行くと, 大行列ができるほどおみくじは需要があり, 影響力があると言える. そこで, おみくじの特性を利用したチケットを制作した.
おみくじに書かれている席は神様の[お告げ]であるため, これが自分の[定め]であると思わせることができる.通常の席を指定するチケットを受け取った際, 席が近いと発奮し, 遠いと落胆するといった経験が誰しもあるはずだが, おみくじになるだけで, 席がどこであるかという高揚感は保ちつつ, 肝心の席がどこであっても受け入れてしまうのである.
そこで, 〈席みくじ〉を考察し, ネットワーク情報学部コンテンツデザインプログラムのフィールド演習を履修する学生に席に引いてもらった(写真1). おみくじを引いた際に, 誰かに結果を言いたくなる振る舞いが活かされ, 会話が弾むことが分かった. 学生からも良い反応をもらい, アンケートでは「いつもより班決めが楽しかった」というコメントももらうことができた.
チケットには強制力があるが,それが返って窮屈さを感じさせる. おみくじを引くという日本の儀式も強制力を持っているが, 組み合わせることによりチケットを柔らかく感じることができる.
写真1 席みくじチケット
5.2.あめちゃんチケット
私は大阪のおばちゃんと言えば, [あめちゃん]を思い浮かべる. 誰かに飴を贈るという行為がコミュニケーションの1つとなり, 互いの距離を縮めることに繋がる.
そこで, 私はあめちゃんチケットを制作した(写真2)チケットはこれまで, 使用者自身で消化されるものであったが, [あめちゃん] としてプレゼントされるものになれば, 人の温もりを感じられるチケットに変えることができると考えた.
例えば, あるアーティストがこのチケットを導入したとすると, ライブに行けば行くほど, あめちゃんが貯まり, 親密度が可視化され, [推し活]に気合が入る, といった流れである. スタッフが用意したチケットではなく, 推しがくれたチケットだと感じることがファンからしたら重要なのである.
今まで, チケットは距離感や信頼を構築することはできなかった. しかし, ネットが普及した現代だからこそ, 直接的でも間接的だったとしても, 贈られたあめちゃんチケットで距離感や信頼を構築することができるのだと考える.
このあめちゃんチケットのデザインは全て, 研究室のメンバーをモチーフにし制作した.
写真2 あめちゃんチケット
5.3.その他の作品
5.1, 5.2で述べた成果物に加えて, チケットの[しまう]という固定概念を取り除いたストラップチケット, 今まで単独的に使用していたチケットを共同作業によって使用するチケット, 普通の行動を特別に感じることができる空を見上げるチケット, 計5種類を成果物として制作した.
6.おわりに
これまで, 人と密接に関わり合うチケットデザインは一般的ではなく, チケットを利用する規模が大きいほど,便利さが優先されるため,チケットは形式的になっていた.しかし, この研究を通して, 物理的なチケットのデザインの可能性を示すことができたと同時に, デザイン次第で価値が高まり, 近い将来〔ビジネスとしてのチケット〕が生まれていく可能性を見出すことができた. 今後も物理的なチケットの価値に着目し, 今回制作した成果物のように, シチュエーションに似合ったチケットのデザインを探索していきたいと考えている.
参考文献
[1] e tix DATA FARM「世界が認めるオンラインチケットシステム」(閲覧日2022年7月15日)
https://etix.co.jp/service/ticketing
[2] TDRハック「ディズニーeチケットを紙チケットにする方法.パーク来園記念に!」(閲覧日 2022年7月15日)
ディズニーeチケットを紙チケットにする方法。パーク来園記念に!

