サッカーサポーターの批評文化醸成のためのデータビジュアライゼーションの活用


Keywords: サッカー, サポーター, Jリーグ, データ, データビジュアライゼーション, 批評

1.はじめに

サッカーの競技レベルが向上している背景には、試合の詳細なデータを取ることが可能になり、選手のプレーを科学的に分析できるようになったことが挙げられる。データという共通言語を活用することで、チームの戦術や選手のパフォーマンスの評価を主観的な印象だけでなく客観的に議論できるような環境になったのである。しかしデータを見て理解し議論できるサポーターはまだ多くない。日本サッカー界は、昨年行われたアジアカップ2015で日本代表は決勝トーナメント1回戦で敗退、Jリーグの上位クラブが参加するアジアのクラブ選手権では2008年以降優勝を逃しているなど、停滞感が強い。この現状を生んだ要因の1つとして、私は選手やチームに対して正当な評価が出来るサポーターが少ない、という点があると考える。サポーターは試合に直接的な関与はしないが、プレーの質に対するレスポンスや応援という形で間接的に参加しており、場の雰囲気を形成する重要な存在である。そのサポーターがデータを元にサッカーを深く知ることで、見えなかったプレーが見えるようになり、議論や応援が変化することが期待できる。それらによってスタジアムで作られる雰囲気はより質の高いものになり、日本サッカー文化の発展に寄与することができると考える。そこで本研究では、サッカーを深く知るための入り口として、「サッカー選手の試合におけるプレーデータの視覚化」及びそれを活用した批評文化の醸成方法について検討していく。

2.研究の目的

本研究では、サッカーの試合データをデータビジュアライゼーションの手法を用いて加工を行う、また制作物を公開するためのプラットフォームとなるメディアを制作する。またそれらを用いてサッカーの批評文化醸成の第一歩としてサポーター同士の対話や議論を起こすことにデータ視覚化がどのような効果があるのかを検証、考察することを目的とする。

3.先行事例との関連

先行事例として、スポーツのデータの解析及び配信を行っている日本のデータスタジアム株式会社が公開しているサッカーのデータ専門サイト「Football Lab」、イギリスのSquawka社のアプリ「Squawka」が挙げられる。前者はデータ収集に強みがある会社ならではの、豊富な情報量が面白いコンテンツに繋がっており、後者はリアルタイムで詳細なデータが更新される強みを持っている。これらのデータ関連コンテンツの欠点として、「詳細だが議論が起きにくい構成」、後者は「日本のサポーター向けではない」などが挙げられる。以上から本研究では、データを提示するだけでなく、ビジュアル面に配慮し、議論が起きやすくなるように工夫したコンテンツを制作する。

4.調査と分析

味の素スタジアムでのJ1の試合に行き、複数人で観戦するサポーターがスタジアムでサッカーに関してどのような会話をしているか、インタビューを行った。またその日のTwitterを調査した。その結果、以下のことがわかった。
①試合前は日常会話が主で、前節のJリーグの話や、海外サッカーの話などは少しする程度である。
②試合後はその日行われた試合の話を、勝った場合はするというサポーターが多く、負けた場合になぜ負けたかを考え、振り返るサポーターは少ない。またどちらの場合でもデータを会話の中で出す機会は少なく、主観的な意見に偏った議論になりがちである。
③リアルよりもSNSの方が議論になりやすく、試合後のTwitterでは、その日の試合についての議論が盛んに行われていた。
④ホームサポーターが陣取るゴール裏からバックスタンドへと遠ざかるにつれて、応援への熱量や試合観戦頻度は落ちるが、そもそも試合観戦の目的として、応援を目的に来ている人、純粋にサッカーの試合を見ることを目的としている人など席種によって差がある。
以上のことから、成果物は試合後に様々なスタイルのサポーターに見てもらうことを想定し、負けたときでも拡散しやすいネット上での公開とする。

5.成果物

前期で調査・分析したことを元に、1試合のFC東京のパスがどのように通ったか、どの選手を多く経由したかを図式化したコンテンツ(図1)を制作し、自分のFC東京サポーター向けのTwitterアカウントで投稿した。コンテンツの制作過程は以下の通りである。
① 試合の映像を見ながら、どの選手間でパス交換したか数える。それと並行して各選手がボールを触った回数を数える。
② ①で数えたパス本数を選手ごとに集計する。
③ ②で集計したものを図にする。

サポーター間での議論が起きやすく、データを身近に感じてもらうという2点を意識して、選手を表す円の大きさをボールタッチ数が多ければ大きく、少なければ小さく描いた。また試合の変遷が見て取れるように、パスの線もすべて表示するのではなく何本以上通ったら線を描くという基準を試合ごとに決め、表示する本数を絞って制作した点や、試合の前半と後半を分けて2枚の画像にすることで展開の変化がわかりやすくなるようにした点を工夫した。これは4試合分制作したのだが、試合を重ねるごとにフォロワーの方から頂いた意見を元に、パス本数を表す線の太さをパスが多く通ったら太く、少なかったら細く描くなどの改良を行った。
またこれらの内容やFootball LABを参考にして自分でまとめたデータを用いて、2016シーズンを総括、考察したブログを書く活動も展開した。


6.考察

本研究の目的は、サッカーの試合データをデータビジュアライゼーションの手法を用いて加工を行う、また制作物を公開するためのプラットフォームとなるメディアを制作する。またそれらを用いてサッカーの批評文化醸成の第一歩としてサポーター同士の対話や議論を起こすことにデータ視覚化がどのような効果があるのかを検証、考察することであった。制作したパスマップ、特に図1の鹿島戦のツイートは70リツイート、109いいね(1/10現在)をもらうことができ、インプレッションは15000近く、エンゲージメント総数も3000近くと多くのサポーターの目に止まることが出来たと言える。そして目標にしていた議論についてだが、SNS上では私のツイートに対するリプライも多く、また私を絡めなくてもフォロワー同士で、サッカーに詳しい人とそうではない人がこのコンテンツを見ての議論を行ってくれた。その他に試合当日のスタジアムで制作したコンテンツを見てもらいながらサポーター同士で会話してもらうという調査をしたが、データへの理解度もただのデータを見せるよりも、ビジュアル化したデータの方がより話は弾んでいた。
しかし同じSNS上に投稿したものであっても、ブログへのリンクになると、途端にユーザーの反応が落ちることもわかった。おそらくアクセスするためのクリックと読む時間を要するブログよりも、その場で画像として見られるツイートの方が簡単に見られるので、ブログへのリンクを貼ったツイートは数字が落ちたとみられる。このことから日本のユーザーは簡単に見て反応できるインスタントなコンテンツの方にユーザーは流れる傾向があり、批評文化醸成の第一段階としてはそのようなコンテンツの方が有効であることがわかった。
以上のことから、持っている知識量の違う人同士で同じコンテンツを見ながら議論を行わせるという当初に掲げた目標は達成することは出来たと判断した。データの視覚化は私が想定していた積極的なサポーター同士の議論というところまでには及ばなかったので、まだ改善の余地が残る。

7.おわりに

本研究ではサッカーサポーターの批評文化醸成のためのデータビジュアライゼーションの活用について検討してきた。これらの研究はサポーターの批評文化醸成の第一歩に少なからず貢献することが出来たと考えられる。
今後の課題としては私が制作するコンテンツを、異なるコミュニティ同士をつなぐ存在であるバウンダリーオブジェクトとしてより機能するように改善し、起きている会話に私自身が直接関わらなくても、サポーター同士が能動的に行動し会話・議論が起こるようにすることが挙げられる。
本研究を通して、今後日本にはまだない批評文化を作っていくことは不可能ではないと感じた。本研究中にはまだ私が想定していたサポーター同士が積極的に議論を行うという段階にはたどり着けず、まだ時間が掛かるといった印象を受けたが、この研究で行った活動をきっかけに、少ない数ではあるがサポーターの行動が変わったこともわかったので、このような地道な活動を続けていくことにより、日本に批評文化を浸透させる、作っていくことが出来ると感じた。