
Keywords: Co-Design, 科学, 学習キット, 参加型デザイン
1.はじめに
平成17年より、川崎市では「川崎市科学技術振興指針」に基づき、科学の一般化、科学を地域に還元する試みとして実験教室等の科学イベントが行われている[1]。これには多くのボランティア団体が協力しており、出張ワークショップを多く行っている。また、「かわさき宙と緑の科学館」を中心として、科学サポーター研修会を行い、科学を地域に還元する為の地盤を固めてきている[2]。
上記のように、川崎市における科学促進活動は、今もまだ継続的に増加している。しかし、行われているワークショップの形式は開始当初から大きく変化しているわけではない。教材に小さな工夫を重ね、実験教室の運用自体は進化している。しかし、一面ではそれは大人の思考による「分かり易さ」の補強とも捉えられる。そこで、目を付けられるのは対極的にある「子供の思考」である。科学施設だけでなく、科学に興味を持った子供、その親、そしてボランティアの方々が作り上げてきた子供中心のコミュニティの力を援用しつつ、これまで取り入れられて来なかった「子供の発想」を活用した科学学習教材のデザインが求められていると考えられる。
2.研究の目的
本研究は、Co-Design(協働デザイン)アプローチを取り入れ、コミュニティの持つ力を援用しながら親子向け科学学習教材の開発を行うものである。まず、1)川崎市多摩区にある「かわさき宙と緑の科学館」をフィールドに、利用者の親子をはじめ、様々なステークホルダーの力を借りながら、持続性と発展可能性のある教材のデザインを行う事。また、2)それらの活動が行われる科学コミュニティの参与観察を行う事で、協働でデザインを行うための場の要因を検討する事、の2点を目的とする。
3.先行事例との関連
「かわさき宙と緑の科学館」で行われている実験教室においては、教材に多くの工夫を施し、訪れる子供たちに「科学とは何か」を教える為に正面から向き合っている。しかし、実験教室は「教える」という形式でワークショップが固まってしまっている事に課題が見える。それは、子供が自分から何かを知ろうとする感性を奪う事に繋がってしまう可能性があるからである。
専修大学ネットワーク情報学部の2年次応用演習(コンテンツデザイン)では、科学学習教材のデザインを過去10年間行ってきた。しかしながら、演習の枠組みの中で学外連携は時間的にも習熟度的にも内容を深めるには制限が大きい事が課題となっている。
以上から、本研究では、実地調査の回数を重ね、試行錯誤の回数を増やす事で、より現場のコミュニティ状況を踏まえたかたちの科学教材を制作する。また、従来のように教材を使い「教える」だけでなく、共に作り上げていく場に関する調査も同時に進めていく。
4.調査と分析
まず、科学実験教室の実際の状況を調査する為、「かわさき宙と緑の科学館」において行われている実験教室への参加(運営補助)、及び「科学サポーター研修」を受講し、計27回のフィールドワークを実施した。
10月には川崎市教育委員会と共催で実験教室『「ヒコーキ」が飛べる理由を試して考えてみよう』を開催した。

本実験教室の内容は、「オリジナルな小型の飛行機モデルを作り、どうしてその飛行機モデルが飛ぶのかを考えよう」というものである。対象は「小学3年生から6年生までの子供」とし、親子での参加を条件とした。
機体の軸としてバルサ材(木材)、翼として普通紙と厚紙を事前に用意し、「飛ぶ機体」を作る事だけを目標として、全体90分の内、60分以上を自由制作に費やした。
実験教室は2回実施した。受講者はそれぞれ試行錯誤を繰り返し、最後には最初に作った飛行機よりも確実に飛ぶモデルを制作する事に成功していた。
また、本実験教室の監修を、物理学者の小田切健太准教授が担当した、実験の結果を踏まえて理論的側面からの解説を行った。参加者は自分たちの試行錯誤の過程で起こった経験と結びつけ深く納得していた。

また実験の観察の結果から、参加者のほぼ全員が、理論的に飛ぶ形よりも、最初に自分で考えて作った飛行機の形を引き継ぎながら制作することにこだわっていた。これは、子供たちが「自分自身が作った物」に強く執着するという事を示している。学習キット化する際は、この執着心を上手く利用する必要があると考える。
5.活動結果と考察
5.1.活動結果
開催した実験教室への参加者(子供)15名にアンケートを実施した結果、14名が「実験教室を楽しめた」と回答した。更に、8名が「本日体験したセットが解説付きの教材ならば、親子でちゃんと学習が出来ると思う」と回答した。
また、実験教室後に参加していた親子にインタビューしたところ、『親と子供、どちらも「分からない状態」から、考えながら試行を続けていくのは新鮮だった』、『少しの工夫で全く違うものになる、絶対的な正解がない感じが逆に楽しかった』といった感想を得た。
5.2.考察
実験教室内では、親が子供に教える光景よりも、親子で一緒に仮説を立てるといった光景が目立っていた。この光景は、「実験教室」という創造的な雰囲気を持つ場の特性も相まった結果でもあり、従来の「教材」だけで実現することは難しいと考えられる。この実験教室特有の雰囲気を、どのように教材へと落とし込むのかが今回の教材キットの作成への最大の課題だと考えられる。
6.成果物『親子で「ヒコーキ」が飛ぶ理由を試して考えてみよう』
6.1.コンセプト
従来の「答えを教える」事を目的とした学習キットではなく、「試行」と「思考」を目的とし、トライ&エラーの中で気付きを作る事に重点を置いた。
また、「親子で使う」というのも大切なコンセプトである。2人以上で一緒に考え、お互いに試行パターンを考えて出しあう事を狙いに持っている。
6.2.概要
10月に行った実験教室にて使用した材料を学習キットの中に盛り込み、導入部分と解説部分には動画を撮影した。また、親子で一緒に考える為に、親向けに「ヒントカード」を作成し、子供が作った「ヒコーキ」を改良する為のヒントを与える事とした。

6.3.今後の課題
まず最初の課題として、本教材キットを広く頒布する事が挙げられる。多くの方が手に取り、そして楽しみながら学習して貰う事が第一の目標であるからである。
2つ目の課題として、協働でデザインを行うための場面が少ない事が挙げられる。実験教室を開催した際、事前申し込みの中に「親子で一緒に考える、参加するような実験教室は珍しいので是非参加したい」というコメントがあった。「親は教える側」ではなく、「親と子供が同じ立場」になる場所を少しでも多くしていく事こそが、協働デザインの為に必要なのではないだろうか。
7.おわりに
コミュニティの力を援用した親子向け科学学習キットの作成をおこなった。この1年を通して、筆者はフィールドワークに重きを置いて活動してきた。その中で、私は「親子」を同一の立場にして「協働」させる事を考え、実験教室にて実行し、成功させる事が出来た。最終到達目標としては、Co-Designの形となる「子供とイチから教材作成を行う事」であったが、それは今後も同一テーマで研究を繋ぎ、いつか到達する事を望みたい。
8.参考文献
[1]川崎市 科学技術振興方針(本文・資料編) http://www.city.kawasaki.jp/280/cmsfiles/contents/0000006/6505/file1.pdf
[2]かわさき宙と緑の科学館 科学サポーター研修会についての報告
http://www.nature-kawasaki.jp/research/kiyou/kiyou23/kiyou23-5.pdf