アイヌ文化,応用人類学,非人間関係のリデザイン

[NE21-1085A/PCプログラム]
1.はじめに
日本の先住民族であるアイヌは、人間以外のすべてのものを「カムイ(=環境)[1]」と呼び、人間のために何らかの役に立ってくれているものは、みな「カムイ」とし、独自の価値観をもって共生してきた。我々の生活の至る所で仏教や神道などの非人間が関与したシステムが散見されるが、こと「カムイ」に関しては見られない。それどころか、特に都市部においては仏教や神道、カムイなどの霊性を組み込まず見逃してきた。結果として、非人間との相互関係性を現代の都市システム上では見失ってしまっている。
一方で、地域柄という言葉があるように、地域には模様がある。その模様は地域の数だけあり、不定形であるそして、その模様はその地域(環境下)でしか機能しないだろう。ゆえに都市部に無理やりにカムイという模様を見出しても、それは正しい意味でのカムイではない。
以上を前提としながらも、現代都市にカムイを見出す働きを通して、「いま機能している都市システム」と「都市では機能しないアイヌ文化」とが混じり合うことで「カムイのような何か」が芽吹き、人間と非人間の相互作用性を組み込んだシステムが生まれるのではないだろうか。
2.研究の目的
本研究は、応用人類学の考え方を参考に、アイヌ文化を背景にしたギミックの開発/設置等を通して、カムイを都市に見出すためのデザインの探求を行う。そして、我々が近代化の中で見失った環境との相互作用性や霊性を、現代の都市の中で再構築していくとともに、アイヌでない我々が都市部にカムイを見出すことの意義を探究する。
3.調査
3.1.関連する展示/作品の調査
3 月:プンカㇻ(アイヌ文化でつながる博物館等ネットワーク)、4 月:人生の大切なことをゲームから学ぶ展、5 月:国立民族学博物館、リサーチカンファレンス、日本民藝館、6 月:ウポポイ民族共生象徴空間、日本文化人類学会、9 月:釧路市立博物館、釧路なつかし館、映画『シサム』、10 月:デザインフォーラム『デザインと人類学の「目」』、「 から へ。展」、11 月:日本デザイン学会、ICHIGAYA INNOVATION DAYSが主な展示であり、デザインと文化人類学の内容を中心に、アイヌ文化へのデザイン的アプローチを考える切り口の調査を行なった結果、デザインと文化人類学の考え方の違いが見えてきた。
デザインは個人の経験や文化をいかにして抽象化して具現化するか?に重きを置いており、ポジティブで未来的であるのに対し、文化人類学は個人の経験や文化をいかにして当事者の納得のいく形でアーカイブするか?に重きを置いており、リアリスト的な過去に視線が向いている。双方の考え方は根本ですれ違っているのである。アイヌ文化へのデザイン的アプローチをするにあたり、このことが非常に介で、双方の均衡を図る必要性を実感した。




4.実践と成果物
4.1.アイヌ紋様のスタンプアートの制作
6 月までの調査を踏まえ、まずはアイヌ紋様の特徴をパーツごとに分解したスタンプを制作し、スタンプアートブースを開催した。この活動では、参加者に蛾や眼鏡などの身近な環境を深く観察してもらうことを目的としている。結果として、スタンプで身近な環境を表現することで、アイヌ文化に対する関心がワーク前と比べ上がった様子が見られた。また、自身でもスタンプアートを繰り返すうちに、アイヌ紋様のビジュアル的特徴からどのような押し方をすれば、スピリチュアルな印象を抱く模様になるかの感覚を掴み始め、自身の意識の変化を感じた。




4.2.対話するカプセルトイの制作


表 1 より、人が語りかけた言葉に対し、LED の点滅やムックリの音で応答するやり取りを通して、非人間との対話を実現している。
一般的に、カプセルトイを回すという行為は一種の願掛けであり、結果として「何を与えてくれるか分からない」という特徴がある。この特徴は、人間が環境やスピリチュアルなモノに対して抱くシンプルな価値観と同じではないだろうかと私は考えている。ゆえに、カプセルトイの一連の動作に「語りかけ」という行為を加えることで霊性を見出そうと試みた。これはアイヌ文化が文字を持たない文化で、語りを中心に回っていることを参考にしている。
実際に運用してフィードバックをもらった結果、「カプセルトイが何かを言っている感覚がした」という意見が多く、非人間との対話が実現された様子が見られた。


4.3.デジタルゲーム『アㇱケウイナ』の開発
これまでデジタルゲームから学びに繋がる経験を多くしてきたことから、メディアの中でも特に伝播する力が強いメディアであると考えられる。ゆえにカムイを都市に見出す働きの一環としてデジタルゲーム『アㇱケウイナ』の開発を行なった。元々、『ウコニアㇱ』という陣取りゲーム[2]がアイヌ文化にはあり、それを土台にゲーム性の拡張をした。特に「木を植え合う」というウコニアㇱの本来の由来や「木のカムイが座る」というアイヌの考え方、木を植えると動植物がやってくるというシンプルな考え方(カムイたちを招待する)をデジタルゲーム特有の方法で表現した。アㇱケウイナは「(複数を)招待する」という意味[1]である。
アㇱケウイナは現段階では未完成でリリースされていないが、ここまでの取り組みからゲーム制作における責任を考えるきっかけになった。仮にアㇱケウイナのゲームデザインで想定外にアイヌ文化を粗末に扱っていた場合、リリース後にクレームが来るだろう。それは私にだけでなく、直接的にアイヌに関連のある人に対しても来る可能性がある。本来モノを作る行為は、同時に責任を伴う行為である。ましてやアイヌでない私がアイヌ文化を扱うのであればなおさらであると考えられるように意識の変化があった。これは一例に過ぎないが、以上を踏まえるとアㇱケウイナのリリースによって、「文化とデ
ジタルゲームという 2 つの領域の境界をどのように開発から運用までをデザインするか?」という問いを投げかけることができると考える。
4.4.イヌコリヤナギのイオマンテ
イヌコリヤナギのカムイを大学キャンパスに迎え入れ、ヘペレセッ(子熊のおり)[1]に似せた花壇で育てる活動を行なった。最終的にイヌコリヤナギに大量に土産を持たせて手にかけることで、その魂の再訪を願う祭事を行う予定であった。しかし、夏場の酷暑や迎え入れたイヌコリヤナギの生活環境の急激な変化、夏休み期間における世話の頻度の低下によって、9 月までに完全に枯れてしまったため実施することができなかった。この経験はイヌコリヤナギのために時間をつくるケアの精神が欠如していたことを痛感させた。


5.おわりに
本研究は、前期に立てた予定より遅れが生じており、想定していた成果物も完成に至っていない。しかし、本来の目的である「カムイを都市に見出す」に準じた活動を継続できた。また、私の活動を側から見ていた家族や友人も、釣られるようにアイヌ文化に関心を持ち始めていた。このことから都市システムが決して環境との相互作用性や霊性を拒否しているのではなく、ただ見失っているという実感が強まった。また、今回の成果物を通して、カムイという存在に私と多くの人がデザインされ、カムイのような何かを見出し、それを取り巻く環境の創造につながることを望んでいる。
参考文献 / Web サイト
[1] 国立アイヌ民族博物館アイヌ語アーカイブ
https://ainugo.nam.go.jp/ (参照 2025-1-22)
[2] リウカ 帯広百年記念館 アイヌ民族文化情報センター
https://www.museumobihiro.jp/riwka/topics/column/410 (参照 2025-1-22)


