ものづくり衝動を生み出すクエストボードの開発

ものづくり,コミュニティ,掲示板,共同注視

[NE21-1021K/PCプログラム]

1.はじめに

 社会の複雑化に伴い、リーダーシップやマネジメント力、デザイン力に加え、制約条件下でのものづくりにおける思考力が求められている[1]

 私は、本学部の演習を重視した講義の方針および学部生の創作意欲が高い傾向に着目し、3 年後期にものづくりコミュニティ「plusLab」を立ち上げた。様々な技術を持つメンバーが集まり、制作を進める中で、同時にお互いの活動が刺激になるような環境づくりを目指している。

 学生が講義外で制作活動をするにあたり、素材といったコスト制限に加え、時間的制約は大きく影響する。そのような学部生の忙しない環境下でも、ものづくりを遂行するために、様々な提案ができると私は考える。

2.目的

 本研究では、plusLab における時間的制約を超えたものづくりを誘発する手法を考える。普段連絡に用いている Discord はタイムライン形式の特性上、話題の転換が速いため、情報が埋もれてしまうケースが多発している。

 そこで、情報伝達として現実世界に掲示板を制作し、オンラインの伝達手段と差別化できる様、登校時のみ詳細を確認できる仕組みを作る。新しい挑戦の手助けや、大きな活動を始める際の仲間作りの場として活用してもらうための設計を行い、実際に機能するかリサーチしていく。

3.先行事例

 自発的な行動選択の事例として、「クエスト型ジョブ」と呼ばれる仕事の割り当て手法が存在する[2]。敵を倒す、薬草を採集するといったゲームのタスク要素である「クエスト」から着想を得ており、ゲーミフィケーション的に仕事を選択可能な課題として提示するものである。

 クエスト型ジョブを考案した Datumix 株式会社では、エンジニアの仕事を自給制ではなく、特技や目的に合わせた仕事を選択できる成果報酬型を採用している。マネージャーとしてクエストを発注することも可能でありやりたいことを実現する手法だといえる。

4.検証

4.1.クエスト用紙の制作

 まずは先行研究を基に、メンバーが自由に記述して依頼できるクエスト用紙を制作した(図 1)。クエスト受注と達成報告は Discord で行うが、Discord 上では依頼内容は表示されない。

 用紙は、普遍的な内容向けの「無印」、期限の短い「緊急」、内容を公開できない「秘密」、達成時に褒美がある「報酬」、達成が難しい「高難度」の 5 種類を用意し、それぞれ色と一部内容を変更している。また、ゲームのような西洋風のデザインや穴を開けるといった加工を施した。

図1 クエスト用紙

初期は 1 号館の fablab 前に設置したが、発注数は 5 件、達成されたのは 1 件のみであった。設置場所を学部生がよく利用する 1 号館のコミュニケーションサロンへと変更したが、達成数はほとんど伸びなかった。

 しかし、質感へ関心を持つ人は多く、注目を集めるという点においてはビジュアルの精度も重要であるとわかる。

4.2.クエストボードの設置

 クエスト用紙を直接壁に貼るだけでは、景色に溶け込み次第に注目されなくなった。そこで、注目する人自体を増加させるため、クエスト用紙を貼るためのクエストボードを制作した(図 2)。木材とスチールボードを用いているため、クエスト用紙を簡単に磁石で貼ることができる。クエストボードはサイズが大きく異色であることから、発注数が上がるだけではなく plusLab 外の人からも注目され、足を止める人の数が格段に増加した。

図2 サロンに設置したクエストボード

4.3.リアクションの追加

 4.2.で制作したクエストボードは、サロン以外でのリアクションが少なく、クエストの様子がメンバーに伝わらないと考えた。そこで受付システムを制作し、受領手続きを担うキャラクターを準備した(図 3)。発注者が二次元コードからサイトを 開いてボタンを押すと 、Discord に連絡される仕組みになっている。今まで達成時のみにしか利用されていなかったチャンネルに連絡が増加し、結果的に依頼数の増加に繋がった。


図 3 受付キャラクターと通知

5.結果と考察

5.1.依頼件数から考えられる傾向

 検証の結果、クエストの発注数や達成数に関する一次データは以下のような結果となった(表 1)。達成率は全体の約 50%であり、「無印」よりも「緊急」のクエストの発注数が多いことがわかる。

5.2.リサーチを通した考察

 一次データを基に文化祭の準備期間中に発注された 6件のクエストに着目すると、いずれも制作期限の都合上受注を待つ時間を確保することができなかった。最終的に Discord や口頭での直接的な連絡によって作業を割り振る形となり、メンバー自身がクエストを選んで受注することはできなかった。期限が迫る多忙な時期は、クエスト用紙による情報共有は適切ではなかったと考えられる。

 また、未達成のクエストには以下の傾向が見られた。
① ある程度の技術や長期的な拘束を要するものは、心理的ハードルが高く、受注されにくかったと考えられる。
② 一度達成されても効果が薄く、繰り返すことで価値が生まれるもの、例えば定期的に実施される企画への募集はクエスト用紙を毎回用意する手間が負担となり、達成しても貼り替えられず常時掲示するために活用された。
③ 実現可能性よりも、大喜利のような遊び心を優先したクエストも多く掲示された。本来意図していたクエストボードの使用方法ではないが、メンバーの人柄を知る手段となり、話題のきっかけとしても機能した。

 達成数が増加しない、つまり達成されない可能性が高い状態にも関わらずクエスト用紙が一方的に増加していく現象は、クエストを受注することより、発注することがメンバーにとって親しまれたと読み取れる。

 クエストボードの前で友人とクエストを相談しながら発注し、それを別の人が見て話題にしている様子は、直接的な会話をしたことのないメンバー同士が間接的に知り合う機会になったとも捉えられる。その場で複数人が見る共同注視に加え、別の時間軸の人と同じ物事を見るという共同注視が起きている様子から、時間的制約を超えたコミュニケーションを生み出すことができたと考える。

6.おわりに

 本研究では、学生が時間的制約の中でものづくりを楽しむための提案を plusLab にて実践した。クエストボードを開発し、共同注視によるコミュニケーションをすることができた。注目を集める工夫の重要性や、制約があろうとコミュニケーションはもっと柔軟な手法で行える可能性を見ることができたため、これからの plusLab の関わりに生かしていきたい。

参考文献

[1] 文部科学省. “社会環境の変化と求められる人材像”.
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/siryo/attach/1335152.htm ( 参 照 2025-01-
15)

[2] 安田 歩美, 奥村 知樹. “ゲームから着想を得た「クエスト型ジョブ」企業と働き手、それぞれのメリットとは?”. Datumix 株式会社. 2022-02-04
https://www.wantedly.com/companies/datumix/post_articles/375298 (参照 2025-01-15)